俺の理想とは違う女に惚れた。しかも人間。恋愛なんてそんなもんさ、と叢雲は笑う。こんな不毛な恋なんていらねえよ、と煙草の煙を吐き出した。

「…。」

昨日、突然彼女は泣き出した。
開店前のバックヤード、二人で表から聞こえる畜生共の喧嘩じみたおしゃべりを聞きながらの準備中。
そろそろ仕事をしろと怒鳴ってやろうかとした時だった。
「弁天、あのね、」
女の泣き顔なんて見慣れてる。その涙が水道水みたく蛇口を捻れば溢れ出てくるのも。そんなんで動揺すんのは十数年しか生きてない餓鬼共だけだ。
動揺なんかしてない。ただ、嗚呼こいつも泣くような女になっちまったって思った。
「別れて、」
理由も聞かずに「いいぜ」と答えた。
妖怪と人間、五年も続けばいい方だ。

「納得して別れたんだろ?」
「…。」
「ならいい加減にしろよ」
「うるせえ」

ほんの一瞬の火遊びのつもり。何百年と生きてる俺らと百年生きれば十分な彼女との恋愛なんか本気になるだけ無駄だ。

五年で彼女の顔付きはすこし変わった。鏡の前で自分の肌を気にするようになった。好奇心旺盛だった眼差しは真っすぐと俺を見れるようになりすこし憂いを帯びるようになった。
瞬きほど一瞬の時間なのに、それでも、こんなに見ていたんだ。

「愛してたぜ、ハニー」

たとえお前が紫波だらけの婆さんになってもキスをしたいと思えるほどに。










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