私は貴方の負担になりたくないの。
そんなの建前で。本当は別れるのがお互いにとって一番だと気づかせないため。
だから黙ってた。
「…。」
あんまりにも続く沈黙にスモーカーが葉巻から吐き出す煙で部屋の空気は白く曇っていた。
「…、」
「大丈夫じゃねえだろ」
私が「大丈夫」と言おうとしたと同時に彼が口を開く。
このままお互いの姿が見えなくなるくらいこの煙が濃くならないかしら。そしたらその間に痛み止めを飲めるのに。
「なんで言わねえ」
ストーカー被害に合ってた。べつに私が美人だからというわけじゃない。
スモーカーの恋人だから。彼に怨みをもってる人からしたら良い餌食なのだ。
私は普通の男には敵わない普通の女で基本的に一人。狙いやすい。むしろ狙ってくれって感じなぐらい。
でも残念。私がスモーカーにべた惚れで引っ付くように恋人でいるだけだから、私がどうなったってスモーカーへの影響なんて多寡が知れてる。
そう相手に言ったら持っていたナイフで腕をざっくり。
「…、」
「痛えんだろ。」
「平気よ」と言おうとしたらまたそれより先にスモーカーが飲めと水と薬を私に差し出した。
「、平気よ」
でも飲もうとしない私に彼は深いため息と濃い煙りを吐き出して、ぐしゃぐしゃと頭を掻いた。今まで何があっても崩れなかったオールバックヘアが乱れる。
「俺だってそれなりにお前に惚れてんだよ」
堅く結んでいたはずなのに、苦い煙りはいとも簡単に唇をこじ開けた。そこから少量の水と味のしない錠剤が入り込む。
私が飲み込むのを確認してから、乱れた髪を戻して彼は立ち上がった。
「お前じゃあ負担になんねえよ」
スモーカーが出ていった扉を眺めながらぼんやりと思い出す。
裂かれた腕からは大量の血と脂肪がまるで綿みたいに出てきていた。そんな私に優しい言葉じゃなくて怒鳴り声を彼は浴びせてた。
その間、痛みも恐怖も忘れるぐらい安心してたなんて相当。