「『不幸面すんなよ』」
僕は今まであらゆる不幸を体験してきた。友達だと思っていた奴に裏切られるなんてしょっちゅうだし、両親の写真は顔がすべて黒く塗り潰されててわからない、そもそも人に愛された記憶ってものが乏しい。
「不幸面なんてしてない」
「『してる。』」
だって君はたかだか彼氏に貢いだ挙げ句二股されてあっさり振られただけだろう?あ、貢いだは僕の妄想だけど。
「普通に大好きで普通にいい人で普通に仲良くって普通に、普通に、」
彼女はひたすら普通にと繰り返した。可負荷の僕を目の前にしていたからだろう。
「『普通に浮気された。』」
底辺の底辺を這いずる僕にはそんな普通が眩しいぐらい羨ましかったりするんだ。たとえ君が不幸と嘆くことだとしても。
「『じゃあ僕と付き合う?』『そしたら元彼がましどころか素晴らしい人間に見えてくるぐらい不幸になるぜ』」
『よろこべよ』
ぐしゃぐしゃとみっともなく泣いていた彼女は一瞬息を止めて、僕の差し出した手をみた。
これが傷心に付け込むってやつなんだろうか。
「『安心しなよ。僕だって初彼女だ。精一杯、僕なりに、ぐちゃぐちゃに優しく、どろどろに甘やかしてあげるからさ』」
口角を吊り上げるだけの笑みを浮かべた。歪んだ笑顔にしかならない僕の顔。
「『なんて嘘。』」
愛用のプラスネジで彼女を貫いて発動。
「『大嘘吐き。君からその裏切り者の元彼の記憶全部消してやったよ』」
『ああ、僕ってなんて優しいんだろう。』とか思ってみる。
本当は君に手を振り払われるのが怖いだけなんだけど惨めだから言わない。