「いってらっしゃい。」

着古してくたびれたスーツに腕を通す彼の背中に投げつけた。
いつもの真っ黒な鍔帽子を目深に被ったあと、肩越しに私を見やって楽しそうに口元を歪める。

「ああ」

彼が楽しそうな顔をするのは相棒ルパンの話をするときだけ。優先させるのもいつもルパン。私は二の次。大介にとって私は所詮遊びなのだろうか。とか恥ずかしくなるような事を考えてしまう。

ぱたん、とオートロックの扉がしまった。彼は鍵を持たない。もうホテルに戻って来るつもりはないから。そして私は彼からの連絡があるのをひたすら待つ日々に戻る。

ひたすら待つ日々。

私は連絡先を知らない。大介とルパンはどうやって連絡を取っているのだろう。たまに自宅に送られてくる海外行きのチケットとホテルの名前だけ書かれた手紙で私たちはこうして逢ってるけど。

チェックアウトは明日の朝10時。
市内観光でもしてこよう。キャリーバッグに手を伸ばした時がちゃり、と扉が開いて次元が入ってきた。

「…戻ってきたの」
「ああ。たまにはルパンとの約束蹴って彼女と居ようと思ってな」

ニヒルに笑って私の隣に腰を降ろす。
距離が心なしか近い。
懐から出した煙草を挟む骨張った指。

ライターを取出して火を点けると「悪いな」なんて一言。

「ところで、」

白い煙を吐き出した唇が自然に近付いてきた。あと数ミリで触れそうだという距離で私は話始める。

「私は今まで一度も煙草に火を点けたことがないんだけど上手だった?ルパン」

ぽかん、と口を開けたあとくつくつ笑いだして最後は大口で豪快に笑ってマスクを外した。

「あわよくば唇奪っちゃおうかなーなあんて思っちゃったんだけど」
焦りすぎたか、どこで気づいた?

ホテルの扉を指差す。

「入ってきた時から。次元はキーを持っていかないもの。」
「ロビーで貰えるだろ」
実際俺はロビーで貰ったぜ?

ルパンが仰向けに寝転がりながら言う。
今頃次元はルパンとの約束の場所に着いている頃だろうが。

「待ってるのよ」
「待ってる?」
「そ。部屋の扉の前で、扉が開くのを」
前に一度貴方にすっぽかされた時があったでしょうその時戻ってきてずーっと扉の前で座って待ってたみたいなの。

莫迦よねえ、と笑ったら、ルパンも一緒に笑った。

さあ、そろそろ次元がホテルに引き返してくる時間だわ。
たまにはたっぷり困らせてみようかしら。








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