始めて見たのは、顔を真っ赤にして先輩と話しているところだった。
その姿に一目惚れしたなんて皮肉な話。
「マスルール、これ。」
先輩から俺に差し出された手紙は彼女宛てのもの。
「…自分で渡せばいいじゃないっすか」
二人は定期的に手紙を交換しているらしくて、何故かその橋渡しになっているのが俺。一目惚れしたと同時に失恋して今も傷をえぐられている。
「お前じゃなきゃ意味ねーんだよ」
いいからさっさと渡してこい、と無理矢理押し付けられた。
俺じゃなきゃいけない意味ってなんだろうか。彼女の匂いを追い掛け走りながら考えた。
届くのが早いとか、嫌がらせとかしか思い付かない。
「…手紙っす。」
お昼のサンドイッチを今まさに頬張ろうとしていたようだった。
慌てて口を閉じて立ち上がったものだから、膝の上に広げていたサンドイッチが全部地面へと転げ落ちる。
「あ、あ、」
「大丈夫っすか」
「あ、う、はい、…あ、手紙ありがとうございます」
彼女は恥ずかしそうにはにかみながら手紙を受けとったあとすこし残念そうに落ちたサンドイッチを見ていたから、拾って食べた。
「えっ…!あ、あの、」
「うまいっす」
「ち、ちがくて、それ、地面に、」
「はあ、まあ、平気っす」
もっと酷いものを食べていたときだってあったし。
もぐもぐと食べ続けていると、彼女もしゃがんだ。一目惚れしたときよりもさらに顔を赤くしている。
「あ、の…これ、」
差し出された手紙を無意識に受け取る。
「先輩にっすか」
「…違います、その、マスルールさん…に、」
「自分に?」
真っ赤な顔のまま頷いた。
最後のサンドイッチを飲み込む。
「読んでもいいっすか」
「で、できれば…あとで、」
この手紙を無くさないようにしまったあと、立ち上がる。
「昼飯食いにいきませんか」
頷いたのを確認して抱き上げる。
彼女が息を飲んで身を硬くした。
「手紙、期待してもいいっすか。」
「たった一言だけ、ですけど、」
早く、読みたい。