「頬、どうしたんだ」
仕事を終えて寝所へやってきた紅炎が私の左頬に手を添えた。
すぐに原因がわかったけど、私はあえて本当のことを言わずにとぼける。
「あら、何処でぶつけたのかしら?」
「…殴られたあとだろ。また、義母さんか?」
彼のお義母さんは、傍目からも分かるぐらい紅炎に好意を寄せている。義母としてじゃない。女として。
「言ったら怒るでしょう」
「別に怒りはしない」
「本当?」
「待て。すこし嫌な予感がする」
くすり、と笑みを零して頬に添えられたままの手に手を重ねた。
「私は皇子のただの精処理道具ですって言っただけよ」
紅炎の顔が見る間に険しくなったのが面白くてくすくすと笑ってしまった。
「よく言う…。実際は一度も許したことなどないのに」
「ふふふ、だって貴方は手に入らないもの程好きでしょう?」
毎夜違う女人が寝所に出入りしているのを私たちはよく知っている。今晩は私の番よとお腹をさする妾たち。皆抜け駆けを画策しては陥れられる。
「そうかもな」
否定の言葉がもらえるなんて思ってないわ。それでいいの。
高嶺の花を気取っている私にいつか貴方が飽きて別の女を妃にするのだから。
私は貴方と二人だけのこの空間を持てただけで満足しなくてはならないのだから。