「俺は、じじいみたいな事はしない」
彼はとても苦しそうに呟いた。苦しそうに見えたのは私の願望かもしれない。
両肩に食い込んでいく彼の指を私はちっとも痛く感じなくて、むしろ、触られていることに重点が言っていて、心臓がどくどくと血を全身に送っているのがはっきりと分かるぐらい脈打っていた。
可愛らしく言うと、ときめいていた。
「…、」
せっかくだ、会話をしよう。ようやくそう思って承太郎の言葉を反芻する。
「私との恋は浮気?」
ひと時の気の迷い?
ぎしり、と私の両肩の骨が軋み声を上げた。肩の骨が砕けたら、腕は上げれないだろう。
「意地悪よ。気にしないで。」
大きな背中に手を回す。抱きしめてはいけないからぽんぽんと子供をあやすように叩いた。
「性根の悪い女だぜ」
彼は苦々しく吐き捨てるとようやく離れた。途端に帽子を深くかぶり直してしまったからその表情は見えない。見えなくていい。
「じゃあね」
「ああ、じゃあな」