手が冷たい人は心が暖かいんだよ、とおきまりの台詞をなんの感慨もなく零したら、手が暖かい人は人を暖められるわ、と握ってきた掌はひんやりと冷たかった。
体温がしんしんと奪われていく。
「そんな細やかなことは絶望と変わりないよ」
冷たい手を振りほどくと触れていた場所がだけが冷たい空気を敏感に感じ取って気持ちが悪い。
「そうかしら」
彼女はその手で頬を包んでしばらく黙り込んだ。
「本当だ。私の手は冷たいままね」
現実は何も変わらないわね。
淋しそうに落とされた言葉は僕が言わせたものだ。僕があの時「そうだね」と同意していればそんな事を彼女は言わなかった。
いいや、現実は変わらない。たとえ僕が同意していても結局彼女は自分の冷たさに絶望していただろう。
ぐらり、と彼女の体が揺れて倒れた。どろどろと流れ出た血は黒い。絶望的に黒い。これは人の血なのだろうかと疑問を抱いてしまうほど。
これは人なのかと思うほど彼女は冷たく冷たくなっていった。