幸福論なんて所詮机上のものだよ。
彼はあざ笑うように言った。真っ黒な瞳の説得力ったらない。
「そんな事ない」
「あるよ。」
「私の幸せはイルミ、貴方と恋愛できてることだわ」
「ふうん」
気の無い返事をしたあと、でもと彼は続けた。
「些細なことで俺を嫌いになったら、俺と付き合ってることが嫌で堪らなくなるんじゃない」
「…じゃあイルミを好きでいると。」
「好きでいるのは幸せなことだけじゃないよ」
彼は淡々と不幸を語る。
私はそれが気に食わなくてイルミの語る不幸を否定した。
「イルミは私のこと好きでいて幸せ以外を思ったことがあるの?」
それには答えず「幸福論を掲げて義務みたいに俺を好きでいてほしくないだけ」と。
なんだか私は愛し方を間違えている気がして、決して今囁いている愛は義務ではないと、幸福に固執しているからではないと伝えたくて、でも上手い言葉が見つからなくて、結局私はそれ以上幸福論を語れなかった。