「俺たちって付き合ってるよね?」
「…え?いつから?」
知らない間の進展に疑問で返してしまった。
彼、イルミとは何年か前に知り合った同業者。最初は簡単な依頼を私へ回すために家に来たり連絡を取っていたりしたけど、いつの間にか合鍵が作られていて、気づけば彼の私物が増えていて、そして勝手に模様替えがされていたことにはびっくりした。
「…何でもない」
かたん、とテーブルに合鍵が置かれる。私のマスターキーと違って柄の部分が猫の形に装飾されたイルミの鍵。
そのまま飲みかけの紅茶も放置して部屋から出て行ってしまった。
それから来てない。
仕事が忙しいのかしら。
前にもしばらく来なかった日が続いた気がするけどこんなに長かったかしら。
もう、来ないつもりなのかしら。
勝手に模様替えされて落ち着かなかった部屋にももう馴染んだ。二人がけのソファは私が座る方だけくたびれていく。
「…。」
連絡してみようかしら。仕事忙しいの?その一言だけ。不自然じゃあ無いわよね。
…あの時「そうよ。」と答えてればこんな一言を送るのも自然不自然とか考えずにすんだのかしら。
「元気ないね」
突然降ってきた声に顔をあげると、イルミが大きな花束を持って立っていた。
「そう言えば、ちゃんと告白してなかったね」
カタカタと無表情に笑って、花束を私に手渡す。生花の甘い香り。
どこ行ってたの、どうしてスペアキーを置いていったの、聞きたいけど泣いてしまいそうだったから受け取った花束で滲んだ涙を隠した。