「ええ、とても」と言ったら笑われた。

わさわさと恋人の口から大嫌いな虫がでてくるのは何回見ても卒倒しそうになる。

「手足が4本以上ある意味がわからないわ!」
「グリンに聞いてこようか?」
「結構よ!」

けらけらと至極愉快そうに虫をだす。
私が嫌な顔をするのが楽しいのだ。悪趣味な人。

だけど、トミーロッドが虫を引っ込めて顔を近付けキスを迫ってきても嫌だと言えない。
今さっき大嫌いな虫がそこから出てくるのを見たと言うのに。

「拒まないの」
「拒んでほしいの」

つまらないだけ、と零して唇が重なる。
いつ、貴方の可愛くて私の大嫌いな虫の餌になってしまうかと考えるとがくがくと身体が震え出すほど怖いのだけど、それでも逃げ出すことが出来ない。

「つまらない私は嫌い?」

想像しただけだと言うのに微かに声が震えてしまった。ああ、なんて情けない。

「嫌いって言ったって僕のこと好きなんでしょ」

そうよ。嫌いって言われたって大嫌いな虫の卵でお腹を満たしていたってどういうわけか貴方のことが好きで好きで堪らないの。

「ええ、とても」大嫌いな虫さえ愛しいと錯覚してしまうほどに、ね。

トミーロッドは至極愉快そうに笑ってまたキスをした。

「んう!」
「プレゼント」

口から口へと移された虫がもぞりと舌の上を這う。吐き出してしまいたいけど貴方からの初めてのプレゼントだと思うとどうにも出来なくてそのまま。

がくがくがく、ついに崩れた膝。床に座り込んだ私の唇を指で開くと虫が口外へと飛んでいった。

「いらなくなったら、ちゃんと僕の手で殺してあげるよ」

そんな約束だって今だけのくせに。








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