また自分の家を食べ尽くしてしまったからと弟が転がり込んできた。
それほどまでに大食漢な弟が満足できるぐらいの食料が一般家庭用の冷蔵庫に入り切るわけもないのに「姉貴、飯」と当然のように言う。しかも一流の料理や食材を毎日食べているその肥えた舌で。

「あ。」

今日はココが貴重な茶葉を持ってきてくれるからと奮発して買ったデパ地下のお茶菓子を当たり前のように食べていた。

「トリコは棚のものすぐに見つけて食べるわね」

トリコにせがまれて作ったオムライスをテーブルに置くとクッキーを食べる手が止まってオムライスと一緒に置いたスプーンを手に取る。弟の体格では子供用に見えてしまうスプーンで一口一口丁寧に。
卵をあるだけ使ったオムライスが半分になるころ、ドアチャイムが鳴った。時計を確認すると約束の時間ぴったり。

「いらっしゃい」
「少し早かったですか?」
「いいえ、ぴったりよ」

玄関の靴を見て「トリコの奴また来てるんですか」とココが零した。
二人が揃うと一人暮らし用のリビングの狭い事。

「久しぶりだな。トリコ」
「そうでもねえだろ」

ココの出迎えのため玄関へ行っている間にオムライスはほとんど無くなっていた。

「もっとゆっくり食べなさい」

呆れて言った私を無視して大きく口を開けて残りを一口で食べ切った。ごいそうさまでした、と丁寧に両手を合わせて満足そうな顔をしている。

「…君さん、僕もオムライス食べたいです」
「いいけど、この辺にオムライスの美味しいお店あったかしら」
「いえ、そうじゃなくて、」
「姉貴、次はハンバーグ」
「ひき肉がないから無理。」

オムライスの美味しいお店、お店、その事で頭がいっぱいになっていたら、トリコがお茶菓子を全て食べ尽くしてしまった事に気づくのが遅れてしまった。

「あー!もう!何してるのよ!」

空っぽのクッキー缶に今度はお茶菓子の事も考えなくちゃならなくなる。

「君さん!」
「あ、ココ、ごめんね、直ぐにお茶淹れるわ」
「ありがとうございます、でも、あの、」

何か言いかけてるココに首をかしげると、トリコが大笑いしはじめた。

「姉貴、いーじゃねえか、飯は作れば」
「軽く言うわね。いつもあんたが食べ尽くしちゃうから困ってるのに」
「材料は俺が買ってくるから、二人は茶でも飲んで待ってろよ」

そのお茶菓子も食べ尽くしちゃってるくせに。
止める間もなくトリコはさっさと買い物に出て行ってしまった。

「もー。ごめんね、今日は家料理で我慢して?」
「あ、いや、いいです。その、ずっと食べたかったんで」
「そうなの?早く言えばよかったのに」

笑って言うと、ココははにかんだ。









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