ドアチャイムが鳴って妹が「うちが出てくるし!」と明るく玄関に向かったあと、甲高い声が響いた。
「トリコいらっしゃーい!」
妹のリンが大はしゃぎで迎え入れたのは大食らいの私の恋人。
月に一回の姉弟の食事会にこうしてトリコが出くわすのは始めてだった。
「よお」
「サニー、威嚇しない」
うねる触覚にぴしりと言うと収まりはしたが目つきは悪いまま。
「何食ってんだ?」
「ゾウ海老のグラタン。」
トリコの何か言いたげな視線をほうってグラタンを口にする。表面が冷めてしまったけど中はまだ熱々。
「サニー、ゾウ海老嫌いだったろ。俺が食ってやろうか?」
「…。」
「そうなの?サニー、嫌いなものなんてあったの?」
美容に良いものを好んでいたのは知っていたけど、今まで出したものは残さず食べていたから気づかなかった。
「言ってくれれば姉ちゃん他のもの作ったのに」
「…つに。姉ちゃん早く食わねとトリコに取られるぜ」
「平気よ。トリコはもっと美味しいものお腹いっぱい食べてきてるんだから」
まあ、それはサニーも一緒だけど。なんだかんだ可愛い下の妹がこの食事会を楽しみにしているから続いているようなものだし。
トリコがじっと料理を見つめてくる。さすがに居た堪れない気持ちになってきたころ、突然大きく口を開けた。
「何?」
「一口くれ」
「嫌よ。」
今日の晩御飯はこれだけだし、トリコの一口は一口じゃ済まないのは分かってる。
「俺、君の飯まだ一度も食ったことねえ」
「そうだっけ?また今度ね」
「この前もそう言ってたろ」
特別料理が上手いわけでもないのに、一流のコックをパートナーにしているトリコに自分の手料理を食べさせたいとは思わない。だから何かと理由を付けて食べさせないでいる。
けど、それも今日で限界だったみたい。
ふう、と息を吹きかけて気持ち冷ましたグラタンを横からばくりと食べられ、そのままスプーンを奪われてしまった。
「…っトリコ!」
「サニーばっかりずりいだろ」
奪われたスプーンで私のグラタンはすべて彼の胃の中。止める暇もなく食べられてしまった。
「だから言ったし」
サニーは呆れ気味で、リンは楽しそうに笑ってる。
「好きな女が作った料理が不味いわけないだろ」
料理の評価は聞きたくなかった。でも、そんなふうに言われるのはすこし、嬉しい。
「!トリコ、てめっ俺のも盗んなし!」
来月は私とサニーの分が盗られないようにトリコの分も作ろう。