僕は君が思っている以上に、君に好かれるための努力をしてきたんだ。
ダンスはよりリードが上手くなるよう女性パートもマスターした。君が好きな紅茶の煎れかたも完璧。服装だって君好み。
それなのにどうして!
「ごめんなさい」
君に好感を持たせる喋り方。話しやすい話題。飽きない時間の作り方。
全部完璧で、君は確かに僕に好感を抱いたと確信したからなのに。
「どうして?僕の何がいけなかったんだい」
彼女は困ったように笑う。
「貴方が無理をしているから、です」
僕は無理なんか、ひとつもしていない。君に好かれるなら性格を変えたっていい。それほど、僕は。
「振るならはっきり振ってくれ、」
搾りだした言葉に彼女はますます困った顔をして俯いた。
困った顔も可愛いな。とか思ってしまうほど末期なんだ。
君に好かれたくて堪らないんだ。
「振りたくなんか、ないですよ」
「…っ、僕は、無理なんかしていないから、」
だから、それなら、振らないでくれ。
こんなはずじゃなかった。
こんなみっともないくらい君を好きなのは自覚していたけど、だからこそ今までバレないように、余裕のある振りをしていたんだ。
「ココさん、」
私はただ、貴方が私を好きでいてくれるだけで幸せなのです。
複雑な顔をした彼女にぐ、と拳を握って恐る恐る聞いた。
「こんなカッコ悪い僕でも?」
「カッコ悪いなんて思ったことありません」
本当にそうなの?信じないわけじゃないけど、ほら、世の中の女性は…、ああ、でも今はどうだっていい。
「カッコ悪いぐらい好きなんだ。付き合って、」
最後はしりすぼみで聞き取れなかったかもしれない。格好つけてない台詞を言うのはでき過ぎた言葉より恥ずかしい。
彼女は「やっと言えます」と零してから「はい」と笑った。