目の前に葡萄を持った人がいた。
それを車内で大胆にも一房を一口で食べては美味しそうに頬を緩ませている。
夕方18時。
夕食がまだの私はお腹が減っていたのもあって、不躾にもじいっと見てしまっていたら、一房、私の前に差し出されて思わず両手の平をお皿の形にするとそれが置かれて端と気づく。
「え、あっ、あ、」
手の平から溢れる一房の葡萄とそれを置いた人物を交互に見る。
青い髪をした身体の大きなその人は耐え切れないと言わんばかりに笑っていた。
「さっきから声にだしてるぜ」
「え?」
「美味しそう、美味しそうって」
「え、えっ、嘘、えっ」
熱い顔で周りを見渡すと周りの乗客もくすくすと笑っていてさらに顔が熱くなる。
なんて恥ずかしい!
「やるよ。美味いぜ?」
「…ありがとうございます」
瑞瑞しい葡萄の心地好い重さや車内に広がる甘い香りに喉が自然に鳴って断るなんて到底無理だった。
それから、18時の電車に乗るのが少し恥ずかしくて、でも青い髪のあの人にまた逢えるかもしれないと淡い期待をしながらお返しの葡萄を持って乗車する。