ミシン針を火で炙って剥き出したままの歯を隠すように頬を縫う。
「さっさとしろ」
「急かさないでよ」
こんな贅沢滅多にないからわざとゆっくりと莫迦みたく丁寧にやってるのだから。
「…はい。終わり。」
ぱちん、と糸を切ってずっと上げたままだった腕をようやく下ろした途端捕まれた。
「針、持ってるから危ない」
放して。
耳は人一倍良いはずのゼブラはまるで聞こえてないみたいに手の力を緩めようとしない。
「ゼブラ。」
「放せ」
「…ゼブラが手を放してよ」
「針持ってる指だ。馬鹿」
「ぜぶらのがばかよ」
「ああ?」
針を放すためにもう片方の手で取ろうとしたらそちらも捕まれた。
「ちょっと。」
「早く放せ」
「今放したら落ちるでしょう」
「さっさと放せ」
この人は耳が良いけど言葉は通じない。
仕方なく針を指から放して落とす。見失わないように自分の足の間へと。まだ熱を帯びた針が太股の上を滑る。
舌打ちが聞こえて、捕まれていた片方の手首が解放された。
「…そんな持ち方したら危ないわ」
「うるせえ」
今度は太股の上へと落ちた針を握りしめて、何がしたいんだろう。血は出てないから刺さってはいないようだけど。
そんな慌てて拾うぐらいなら何で落とさせたりしたの。
「指、火傷してんだろ」
「…してない」
「してる。」
熱い針を持っていたから確かに少し、赤くなってひりひりしているけど。強いて言うなら低温火傷程度。
「平気よ。」
それとも彼には聞こえるのかしら。じりじりと私の肌が焼けていく音が聞こえたのかしら。
「意外と心配性なのね」
「………。」
いつもは物の数分で意味を無くしてしまう縫い目だけど、堅く結ばれた口のお陰でしばらくはゼブラの手の中にある針を使わなくて済みそうだ。