問題集を閉じた拓海は、はんてんを着込むと台所に向かった。
2DKの狭い家は、拓海がいた部屋の他はしんしんと冷え込んでいる。
拓海の住む木造アパートでは、石油ストーブ類は禁止されていて、その他の暖房器具はガス代も電気代も節約するために、なるべく使わないようにしていた。

ミルクパンを使うのも面倒で、牛乳を入れたカップをオーブンレンジで温める。母親が奮発して買った最新式のオーブンレンジは、今年のクリスマスは牛乳を温めるくらいしか使い道がなかった。
クリスマスになると、拓海は毎回ケーキを焼いているけれど、今年は作る気にもならなかった。遥都は帰って来ないし、家政婦をしている母親は、派遣先でクリスマスパーティーが行われるため、帰宅が遅くなってしまうからだ。

軽快なメロディーが鳴って、オーブンレンジからカップを取り出したところで、玄関のチャイムが鳴った。

「はーい」

はんてんを着たまま玄関を開けた拓海は、目の前にいた人物を見て固まった。
見慣れたアパートの古い玄関とは、全く不釣り合いな男がいる。

「拓海」
「……先輩?」
「覚えてたか」

忘れるはずがない、こんな美男子。
あの時、学園で話を聞いてくれた悠真が、なんで拓海の目の前にいるのだろう。

「どうしてここにいるんですか?」
「様子を見に来た」
「見に来たって……」
「暇か? 暇だろう」
「今勉強中……」
「夕食を食べに行くぞ。たまには息抜きも必要だ。」

そう言って笑った悠真に、拓海は頷いていた。


◇◇◇


「寒くないか?」
「いいえ、全くもって大丈夫です」

国産高級車運転手付きの車内は、拓海の家より余程暖かい。しかし、乗り慣れない拓海は、エンジン音も揺れもない素晴らしい車の中で、身動ぎもしないで固まっていた。

隣でゆったりと寛いでいる悠真は、シンプルだけどきっと上質なものに違いない服を着ている。全体的に様になっている男だ。
拓海といえば、家にあるまともな服を身に付けているものの、遥都から貰った服なので、服に着られている感が否めない。

「今日は一人だったのか?」
「はい。母は仕事で遅くなるそうです」
「そうか。俺も時間がなくて、あまり一緒にいられないんだが」
「そうですよ。せっかくのクリスマスなのに、俺と食事なんかしていてもいいんですか? それに、どうして家がわかったんですか?」

悠真なら引く手あまたのはずだ。今日だったら特に。
それなのに、わざわざ拓海の家に迎えに来てまで一緒に食事しようとするなんて、勿体ないと思う。

「俺は拓海と過ごすのも有意義だと思うが?」
「そっ、そうですか」

口元に笑みを浮かべながらの悠真のタラシ発言に、拓海は返事をするのがやっとだった。

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