3僕たちは、王子様のためにも藤沢君を守ろうと決意していた。だから、白ゆりの君がピンチだと聞いて、僕は一目散に食堂に向かう。
そんな時、ちょうど居合わせた親衛隊の先輩方が、僕に声をかけてきた。
「そこの畑山君、ちょっと待った!」
「は、はい!?」
「それ、柚子胡椒だよね」
「えっ……? うわっ本当だ!」
先輩が指差した方を見ると、僕がじいちゃんの柚子胡椒をしっかりと握りしめていたことに気付いた。
急いで出てきたから、ビンを握ったまま来てしまったみたいだ。
焦った僕が、慌て背中に隠そうとしたら、何故か満面の笑みを浮かべた先輩に止められてしまう。
「でかしたよ、畑山君!」「よくやった。これもらってもいいよね? ね?」
「えっ、は、はい」
何が何だかわからなかったけど、僕は柚子胡椒を先輩に手渡した。
先輩の手に渡った柚子胡椒は、そのまま先輩とともにどこかに向かってしまった。
訳がわからない僕に、残っていた先輩がことのあらましを話してくれた。
藤沢君がお友達を守るために、柚子胡椒を絶賛したと。
入学式を終えたばかりの彼が、副会長様から友人を救うために、その儚げな身を挺したという。
それを聞いた僕は、彼は白ゆりの天使なのではないかと思った。
それから二日後、僕は王子様とあの藤沢君と対面していた。
「畑山先輩、柚子胡椒ありがとうございました」
「いいえ。じいちゃ……、祖父が作ったもので、あんなのですみません」
「そんなことないですよ。すごく優しい味がしました。きっとお祖父様が、先輩を思って作ってくださったんですね」
そう言って笑った藤沢君が、本当に天使に見えた。
部屋に戻った僕は、クローゼットから段ボールを取り出した。段ボールの中には、今まで送られてきた柚子胡椒がずらりと収まっている。
その一つ一つを眺めながら、僕はじいちゃんと母さんのことを思った。
父さんが死んでからも、変わらず黙々と働いていたじいちゃん。本当は母さんと僕のことが心配で堪らなかったんだと思う。
柚子胡椒のフタを開けて、ちょっぴり舐めてみた。
ピリッとするけど、ちゃんと柚の風味がした。
じいちゃんが、僕たちが安心して暮らせるように努力してくれた結晶だった。
◇◇◇
僕が廊下を走っていると、クラスメイトが声をかけてきた。
「お前ら次から次に大変そうだよな」
「わかってんだったら邪魔しないで」
「畑山は、木崎と藤沢って子のどっちの親衛隊なんだ?」
「どっちも大事!」
そう言った僕に、クラスメイトがニッと笑った。
「何かお前変わったよな。前はガチガチに固まってるみたいだったけど」
「何それ。どういう意味?」
「今の方が、断然いい感じだなって思っただけ」
「う、うるさいよ。僕は急いでるんだからね!」
「わりわり。じゃあ頑張れよ!」
自分でも真っ赤になってるのが分かって、ニコニコしているクラスメイトから急いで離れた。
僕が変われたのは、王子様と藤沢君のおかげだ。
だから僕は、二人の平穏のために努力は惜しみません!
end.
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