僕の家は農家で、まさに畑山が畑を耕す仕事をしていた。
そんな畑山が主に生産していたのが唐辛子だ。色んな品種を育てて、新種も開発している。
そして僕は辛いもの、とりわけ唐辛子がだいっきらいだった。僕が田畑を継いだら、絶対に唐辛子の生産は止めてやるって誓うくらいに。

それなのに、じいちゃんはその唐辛子と庭に実っていた柚を合わせて、柚子胡椒を作ってしまった。
その柚子胡椒がなぜか近所で評判になり、あちこちに置いてもらえるようになった。柚の木も沢山あったので、柚子胡椒はいくらでも作れてしまうんだ。

そんなある日、地方ロケに来ていた芸能人に、じいちゃんの柚子胡椒が気に入られた。
それからその芸能人が東京に帰ると、東京に発送するようになった。そうすると、じいちゃんの柚子胡椒が芸能人の間に広がって、テレビで紹介されるまでになってしまった。
それからだった。畑山が、柚子胡椒成金への道を歩み始めたのは。


何でよりによって柚子胡椒だったのか。
親衛隊の仲間と家の仕事の話になった時、柚子胡椒の生産をしていると言ったら微妙な空気になる。
「素敵ですね」なんて言うけど、お前ら本気でそう思ってんのかとメンチを切りたくなる。あくまでもメンチを切りたくなるだけで、やり方はよく分からないんだけど。

柚子胡椒の小さなビンを握りしめて嘆いていると、スマホが親衛隊の電話だよと知らせてきた。

「畑山です」
『畑山君、白ゆりの君が大変です。至急食堂に向かうように』
「わかりました!」

僕は急いで食堂に向かった。
白ゆりの君とは、王子様の大切な幼なじみのことだ。

はじめて王子様から幼なじみの話を聞いた時は、胸がえぐられるくらい辛かった。
王子様は幼なじみだって言うけど、その話しをしている時の王子様は、いつもの王子様とは全然違ったから。
すごくすごく大切な人なんだってわかった。
僕たちは、王子様を守るためにいる。だから、王子様の大切な人も守らなくてはならない。
でも、みんなも悲しそうで、複雑そうな顔をしていた。

学園に王子様の幼なじみが来る日、僕は仲間たちとこっそり様子を見に行ってしまった。
そして、幼なじみこと藤沢君を見た時、みんなが溜息をついていた。
誰かが白ゆりみたいだと呟くと、その通りだと思った。

藤沢君は母子家庭で、王子様と同じ学園に来るために一生懸命努力していたらしいと聞いた。
僕みたいな成金とは違う。
凛としていて、綺麗で、迎えに行った王子様にあんな表情をさせてしまう。
彼には適わないと思った。

そして僕はわかったんだ。
僕はこの一年間、王子様を心の拠り所にしていたけど、きっと王子様の心の拠り所は、彼だったに違いない。

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