水島怜央と篠宮蓮の間に挟まれた彼は、珍しくにこやかな笑顔を浮かべる松平に頭を撫でられ、困ったように笑っている。
それを優しい表情の江利川が見守っていた。


カメラのシャッターを押した平木は、口元に満足げな笑みを湛えていた。目許の表情は、眼鏡が光を反射しているため、分からない。

「平木さん、ネガごと没収させていただきますよ」
「横暴だね」
「まだ彼は我々の護衛対象なんです。親衛隊は正式に発足されてはいませんからね」

そう言いながら、常磐は平木と並び、窓の下を眺める。
楽しげな笑い声が、締め切った部屋にも届きそうなほど、彼らを取り巻く雰囲気は明るい。

「今回は予想が当たりませんでしたね。余計な混乱を招くような行為は、ジャーナリズムとしてはいかがなものかと思いますよ」
「常磐君、あの記事に書かれていたものは、僕が入手した情報を元に作成したものだ。偽りは書いていないよ」
「しかし、あなたの記事によって学園内は混乱しました。アジテーション、つまりは情報操作を行ったということですね」

少しの真実を織り交ぜたセンセーショナルな記事で、生徒達を動揺させ内容を信じ込ませた。
それによって、本命の事実は明るみにはならなかったのだ。

「ジャーナリズムの基本は権力監視だが、しかし、それだけではないんだよ。今回の事は、僕の実験のようなものだ」

今回の一連の出来事は、あまりにもスムーズに話が進みすぎていた。どこまでが平木の思惑通りだったのだろうか。
最終的に、友情のイメージを強く植え付けられた藤沢拓海は、会長補佐になっても、周囲から危険視される事は少ないだろう。

「君の主は、さぞかし不満に思っているんだろうね。しかし、君は真実を検証できると思っていたんだが」
「私は、雇い主の意に反するような行いはいたしません」
「そうなのかい?」
「彼らには背負うものがあります。会長も、それをお分りになっていると思いますが。学園内だからと言って、羽を伸ばしすぎては、大切な翼を傷付けてしまわれるのではないですか?」
「彼の背負うものも大きいからね。身軽な僕にはわからないな」

淡々と答える平木が、何を考えているかなど、推測するだけ無駄だ。
決して相手に己を悟らせることはしない。

「あなたが親衛隊に入るとは、またどんな風の吹き回しなのかはわかりませんが、今までは我々が藤沢君を守ってきました。彼に思い入れのある隊員もいるので、早急に話し合いの場を設けましょう」
「そうだね」
「以後、水島を通します」
「あれ、どうしてかな?」

「無駄が嫌いなので」と、美しい笑顔で答えた常磐は、颯爽と平木の仕事部屋から退出した。

「背負うものねぇ……」

呟いた平木が窓の下を見る。
更に人が集まり、取り囲まれていても彼は変わらないだろう。今後の彼の動向は、平木にとって非常に興味深かいものだった。


end.

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