水島さん、すいません。藤沢を守れなかった。
俺は何時まで経っても水島さんみたいにはなれない。強い男など、俺にとっては程遠いものだったんだ。

藤沢は大丈夫だろうか。俺みたいに殴られでもしたら、あんな体は簡単に壊れてしまう。
……もしかしたら、貞操の危機でもっと酷い目にあっているかもしれない。

朦朧とする意識の中で、藤沢の悲鳴が聞こえてくる。
指一本も動かせない自分が情けねえ。
誘拐された時、怖かったのは自分に何かが起きるんじゃないかということだった。しかし、今は痛む自分の体のことより、藤沢に何が起こっているのか不安で仕方がない。

不意に、冷たいものが俺の頬を撫でているのを感じた。その冷たさに意識が浮上する。
目を開けると、藤沢がボロ泣きしていた。

「もう大丈夫だから」

俺に触れる藤沢の指は、氷のように冷えきっていた。
藤沢が、何故か俺を誘拐犯から助け出した、いかつい刑事と重なった。


◇◇◇


「ありがとう。戸谷君」

医務室に藤沢が見舞いに来た。
俺はガーゼまみれの自分が情けなくて、会わせる顔もねえし、とっさに寝たフリをしちまった。

「戸谷君、痛い思いをしたのに、最後まで俺の心配をしてくれてありがとう。戸谷君は強いね。俺だったら、もっとボロボロになってたはずだよ」

そんなことねえのに。俺が強かったら、お前はあんな目にあっていなかっただろう。
でも、穏やかな声の藤沢の言葉は、俺の無くした自信を取り戻してくれたような気がした。

最後に、水島君の無実を必ず証明するからと言って、藤沢は医務室から出て行った。
俺は慌て起き上がる。

あいつ、あんな目にあっといて、まだやる気かよ。

「藤沢君はこちらで護衛する」

藤沢を追いかけようとしていた俺を、医務室に入ってきた風紀が押し留めて、偉そうに言った。

「君はまず怪我を治しなさい。それを見るたびに、藤沢君が思い出してしまう」
「……チッ、絶対に藤沢を守れよ」

そう言った俺を鼻で笑うと、風紀は出て行った。

喧嘩はできないが、藤沢は強い男だった。だから、水島さんはあいつの傍にいたんだ。
藤沢はあんなことがあっても負けずに頑張っている。俺も、もう同じことを繰り返さないために、二十四時間耐久空手に励んで、さらに強い男を目指すと誓った。


end.

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