俺は常日頃から、強い男になりたいと思っている。
誘拐されたガキの頃の黒歴史を、もう二度と繰り返さないためにも、俺は強くなければならなかった。

強い男になると決めたその時、俺は小学生だった。身近にいた強い男は、俺を誘拐犯から救出してくれた刑事だったので、その刑事に弟子入りしようとした。だが、それはあえなく却下され、刑事の師匠がいる空手道場を紹介してもらった。
そこで出会ったのは、ストイック且つ厳しくも優しい先生だった。俺は強い先生を尊敬し、刑事にならって師匠と呼ぶことにした。

道場でメキメキと頭角を現した俺は、中学に上がる頃には同年代の奴らなど軽く往なすくらいには強くなっていた。それに加え、図体のでかい父親の血か、周りの奴らより体格も良くなっていたことにより、一目置かれる存在となっていた。。
強い男に近付けたと、その時の俺は有頂天になっていたのだった。

だが、天狗になっていた俺の鼻は、中学に上がってから間もなく、見事にポッキリと折られてしまった。
父親の仕事の関係で、中学から桐條学園に通うことになり、そこで強いと噂される奴に喧嘩を吹っかけて、見事に負けた。
その相手とは、水島怜央という俺と同学年の男だ。

水島さんの強さは半端ない。見た目はスマートな優男風だが、それに騙されて侮っていると痛い目を見る。
それに、水島さんは脱いでも凄かった。
人間は、筋肉を百パーセント使うことは出来ないが、水島さんは上手く筋肉を使うことが出来る。だから無駄な筋肉を付ける必要はなく、引き締まった見事な体をしていた。
体育の時間、水島さんの体に見惚れていたら、腹を思いっきり蹴られた。その鋭い蹴りに感動してたら「キモいし」と言って更に殴られたことがある。
今となってはいい思い出だ。

そんな水島さんのご先祖様を辿ると、お庭番一族へと繋がるらしい。忍者だった一族の子孫は、今も忍びの能力を連綿と受け継ぎ、護衛や諜報活動など暗部の仕事をこなしているようだ。
聞くところによると、中瀬や木崎の親衛隊にも一族の人間がいるらしい。

水島さんは、「俺は分家の中でもオマケもオマケだから」と言うが、水島さんがそうなら、一体本家にはどんな超人がいるんだと言いたくなる。
俺の尊敬する水島さんが、オマケであるはずがない。本当はそう言って否定したかったが、水島さんがそうだと言うのなら、俺もそれ以上何も言えなかった。

そんな俺が高校に上がる直前、師匠から空手部に元教え子だった教師がいるから挨拶に行けと言われ、俺は入学前に下見も兼ねて高校に行くことになった。

初めて訪れた高校で、数人の生徒に絡まれている小柄な生徒がいるのを見つけた。
人気のない場所で、遠目に見ても良くない雰囲気だったため、直ぐに助けに入った。強い男は弱きを守る義務がある。

その時助け出した小柄な生徒は、山岸和葉と名乗った。
怖かったのか、大きな瞳を涙で潤ませていた和葉さんは、俺や水島さんに言い寄る女共よりも遥かに可憐で綺麗だった。
落ち着いて元気になった和葉さんは、俺を強いと褒めそやした。そうやって俺を恐がらず、気さくに話しかけてくる和葉さんに、次第に体温が上昇していくのがわかる。
だがしかし、俺は硬派だから決して惚れた訳ではない。和葉さんはそこらの女より綺麗だけど男だ。惚れたとかない。絶対に違う。

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