「拓海、こっちにおいで」

食事も残すところデザートのみとなった時、立ち上がった悠真に呼ばれた拓海は、入って来た方とは反対側にある、大きな窓辺の方に向かった。
窓の外は庭園のようになっていて、その向こうの夜空に、大きな花火が打ち上げられているのが目に入った。

「あっ、花火!」
「隣接している国立公園で、毎年クリスマスに打ち上げられるんだ。ここからだと良く見える」
「本当に綺麗に見えますね! すごいです!」

冬の澄んだ夜空に、花火は良く映えていた。
拓海は、窓越しではなく、実際に音を聞きながら見てみたいと思った。

「ここから庭に出てもいいですか?」
「構わないが、風邪を引くぞ」
「風邪は引いたことはないので、大丈夫です!」

窓を開けて、庭に降りる。暖かい室内で食事をしていた拓海には、冷たい空気が心地よく感じた。

大きな音と、鮮明な大輪の花火に夢中になって見入っていると、拓海の肩にコートが掛けられた。

「ガキみたいだな」
「先輩」
「着ていろ。これで風邪を引かれても困る」
「ありがとうございます」

拓海が笑顔でお礼を言うと、悠真も微笑んだ。
その柔らかい笑顔に、何だか恥ずかしくなった拓海は、慌てて花火へと視線を戻した。


お洒落な場所で美味しい料理を食べて、その上真冬なのに花火まで見ることが出来た。
本当なら一人きりだったクリスマス。受験生だから仕方ないと思っていたけれど、寂しくないわけではなかった。
でも、悠真のおかげで今までで一番豪華なクリスマスを過ごすことができた。

「先輩、今日は本当にありがとうございました」

拓海のアパートまで送ってくれた悠真に、改めてお礼を言った。

「今度は、俺が何かご馳走しますね」
「拓海が?」
「あ、いえ、大したこと出来ないですよ。せいぜいうちで料理を食べてもらうくらいです」
「いや、それはとても楽しみだな」

気を遣ってくれたのだろうか。
それでも悠真が楽しみだと言ってくれたので、拓海は本気で頑張って料理を作りたいと思う。

「拓海、学園に入学したら必要になる。これを着けて入学してくればいい」
「えっ?」

そう言って、悠真は小さな箱を拓海に手渡した。
蓋を開けると、中には時計が入っている。

「先輩、これはいただけません」
「家に幾つも転がっていたものの一つだ。そのまま使われないより、使っていた方がいいだろう」
「でも……」
「持っていても、今使っているもので事足りているから始末に困っていたんだ。だから拓海が使えばいい」
「……わかりました。大切に使いますね」

拓海がお礼を言うと、悠真は満足そうに頷いた。
少々強引だったけど、悠真の気遣いは嬉しかった。
きっと学園はお金持ちの生徒ばかりだから、その中にいても恥ずかしくないようにと考えてくれたのかもしれない。
この時計を着けて、学園に入学できるように頑張ろうと思う。そしていつか、悠真のためになるものを必ず返そうと、拓海は心に決めていた。

「じゃあまたな、拓海」
「はい、悠真先輩」


end.

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