24奈波家とは、俺達が引っ越した後も母親同士のやりとりはあったらしい。俺の両親が亡くなった時も姉さんから連絡を受けて、母親と一緒に葬儀に来ていたそうだ。
俺が入院していた病院にも、見舞いに来ていたらしいけど、俺は全くその事を覚えてはいなかった。
「あの時は、お前も混乱していたからな。記憶が無いって聞いて、落ち着いて思い出したら、また会いに来ればいいと思ってた」
それは、間違いだったのかもしれない。そう言って、俺の頭をくしゃりと撫でた。
警視にまで上り詰めるような人だから、きっと多忙でもあったんだろうな。
「それからずっと気掛かりだった。公園で再会した時もお前は全く俺に気付いていなかったが、俺は強くなってたお前に少し安心していた。だが、あの時病室で見せた寂しげな表情を今でも見せるから、俺は何とかしてやりたいと思ってたんだ」
「だから、セクハラしてたって?」
それはお前が可愛かったからだなんて、奈波さんは恥ずかしげもなく真顔で言う。わざとなのか本気なのかよくわからない。きっと根っからのタラシなんだと思う。
「バーでお前が見ず知らずの男を誘っていた時は頭に血が上ったんだが、慣れてるかと思えばそうでもないし。なあ、寺嶋とは何があったんだ?」
やっぱり話さなきゃ駄目なんだよな。こんな話は出来るならしたくはないんだけど。
「かいつまんで話せばいい。寺嶋を追い詰めたい奴らがいるから、お前のことは表沙汰にしたくないからな。その策を練るために、知っておきたいんだ」
裁いてほしいなら、そうしてやる。なんて言う奈波さんは、俺が法律だとか言うワンマン野郎なんだろう。翻弄されていたあの地味な刑事さんがなんだか気の毒に思えてきた。
俺はというと、奏斗に対して思いっきりぶちかましてやったし、これからは罪を償って行かなきゃならないだろうから、もうどうでもよかった。
正直、あの時のことには触れられたくはない。
それより、姉さんの方が気掛かりだった。事を大きくして余計な心配はかけたくないから。
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