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地味なスーツの若い刑事が、「警視」と呼んでいたから、本当に奈波さんは警察の人間だったみたいだ。
しかも、警視ってわりには若いから、いわゆるエリートキャリアなのだろう。見た目は若頭って呼ばれてそうなんだけど。

それから朝比奈さんから慌てた様子で連絡が入った。相変わらず情報が早い。
簡単に状況を説明して、これから事情聴取があるのだろうと思って、今夜は遠慮してもらった。
朝比奈さんや幸太は、良かったなと喜んでくれて、今までの事を労う言葉をもらった。

朝比奈さん達には散々世話になったと思う。今なら素直に礼が言えるような気分だ。
自分がこんなに単純だとは思わなかった。何でもわかっているつもりで、冷めてる人間だと思っていたけど、結局狭い場所しか見えていないただのガキだったってわけだ。

「誰だ?」

電話を終えると、不機嫌そうな声がした。
若頭っぽい警視が、くわえ煙草で眉間に皺を寄せている。

「あれ、まだいたんだ?」
「いちゃ悪いのかよ」

禁煙です、と言って煙草を取り上げると、更にむっつりとした表情になる。

「さっきの地味な刑事さんと帰らなくていいんです? 俺だって事情聴取とかあるんでしょ」
「ああ、今日はお前もショックを受けて不安定だから、明日にした。俺はお前の付き添いだ」
「どこの誰が不安定だって? 職権濫用じゃないですか」
「それじゃあ、これからじっくり聴取してやろうか」

なんて言う奈波さんはセクハラ警視だ。
文句を言おうとした口を素早く塞がれた。奈波さんの唇で。
もう、怒る気も失せる。

唇が離れると、今度は真面目な顔をした奈波さんと目が合った。

「銃声がした時は肝が冷えた」
「なんで奈波さんの肝が冷えるんです? 何をどこまで知ってるんですか?」
「俺は、お前がガキの頃から知ってる」
「……えっ、じゃあ、やっぱり黒い犬の」

俺がそう言った事で、奈波さんは急に機嫌が良くなった。覚えていたのが嬉しかったらしい。
けど俺は、あの楽しかった思い出が、がらがらと音を立てて崩れてしまったような気がした。
あの人が、こんな変態ドスケベ野郎だっただなんて、騙された気分だった。

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