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手錠を掛けられた奏斗を見て、これで終わったんだと実感した。
もう、まとわりつく視線を気にしなくてもいいんだ。

でも、どうして奏斗は引き金を引かなかったんだろう。

「お前、死ぬつもりだったのか?」

奈波さんが俺の両肩を強く掴んでくる。黒い瞳の強い光に射抜かれた。

俺が答えられずにいると、力強く抱き締められる。
俺を閉じ込めてしまった体からは、ちゃんと心音が聞こえてくる。
その音を聞きながら、自分の体中の血液がやっと流れだしたように感じた。

「よく頑張ったな。だが、今ごろ命が無なかったかもしれないんだぞ」

怒った口調で言うくせに、優しく頭を撫でる大きな手は、確かに覚えがあるものだった。


◇◇◇


それからすぐに駆け付けた警察官に、奏斗は引き取られて行った。
意識を取り戻して、殺したはずの男が平然と立っているのを見て、自嘲気味に笑っていた。
両脇を警官に捕まれた奏斗に、俺はとっさに声をかけた。

「何で撃たなかった?」
「弾がなかったんだよ」
「……俺は、ずっとあんたを兄貴みたいに大切に思ってた」

奏斗は微笑むと、すぐに前を見る。それからは一度も振り返らずに、警官と共にパトカーに乗り込んだ。
俺は、遠ざかっていくパトカーを最後まで見送っていた。

「兄貴って……、最後にきっつい留めを刺したな」
「どうして? 奏斗は笑ってたのに」
「なんだ、あいつマゾヒストだったのか」

感傷に浸っていた気分が台無しだ。
でも、こうして奈波さんがそばにいてくれて良かった。

奏斗はいなくなってから今まで、俺をずっと見張っていたならば、隙を突くなり、どうにかしようと思えばできたはずだ。
引き金を引かなかったのも、最後の最後まで俺を自分のものにしなかったのも、俺への肉親の情だったのだと思うのは、俺の都合のいい解釈なのだろうか。

奏斗が凶行に出る前の俺は、自分の苦しみでいっぱいいっぱいだった。
俺にはどう足掻いても、奏斗に対して肉親への思い以上のものは持てないけれど、あいつが肉親の情と愛欲の狭間で悩んでいたなら、それを少しでも俺が理解していれば、結果は違っていたのだろうか。

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[mokuji]

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