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腕を掴まれそうになった俺は、とっさに逃げ出した。
ポケットから携帯を取り出したけれど、電話をかける事はかなわなかった。

「随分とじゃじゃ馬になったものだ。僕が一緒にいた時は、とても可愛かったのに……」
「いつの話だよ。俺は日々成長してんだ。飛び道具なんか出しやがって、あんたは随分と情けない男になったんだな」

銃口が俺に向けられていた。
拳銃を握っている奏斗はくすりと笑うと、俺から携帯を取り上げた。代わりに冷たい感触を俺のこめかみに押し当ててくる。

「……あの男の番号は無いんだね」

俺の携帯を勝手に弄りながら、奏斗が言う。

「あの男……?」
「今、尋貴の心が囚われてしまっている男だよ。これからどこに行くつもりだった?」
「あんたには関係ない」
「駄目だよ。僕以外の人間に、尋貴の心を僅かでも譲るわけにはいかないからね。体は奪われてしまったんだろう」
「っ……!」

知られている。
どうしてそこまで俺にこだわるのか。こいつの考えてる事が理解できない。
秘めておくべき事を知られている羞恥より何より、ぞわりとした悪寒が体を走った。

「毎日、毎日、僕の事で悩んで苦しんで、僕の事でいっぱいだったはずなのに……。だから、消えてもらったよ」
「……何、言ってんだ……」

奏斗は愉しげな表情で、さも当たり前の事をしたように言ったが、俺はぎゅっと心臓が掴まれたみたいに苦しくなった。
さっきのニュース、奏斗が言っているのはあの事だろうか。でも、あれは犯行グループに撃たれたと言っていた。
それとも、まだニュースにはなっていないのか?

……本当に、俺もどうかしてるのかもしれない、奈波さんの事が、こんなに気にかかるなんて。

「かなり至近距離で撃ったから、助かる見込みは……」

最後まで言わせず、俺は隠し持っていたスタンガンを、奏斗に押しつけていた。
隙をつかれた奏斗は、俺の攻撃をかわしたものの、その反動で構えていた拳銃が発砲される。
渇いた破裂音が耳を突き、嗅ぎ慣れない硝煙の匂いが広がった。
幸い銃弾は受けずにすんだけど、拳銃を奏斗から振り落とす事はできなかった。

朝比奈さんに護身用にもらったスタンガンの威力は半端ない。
俺はこの日のために扱いの練習をしていた。嫌な思い出が残るこの家で、この時を待ちながら。
……だから、他のことに煩わされるのが嫌だったのに。

「いい加減にしやがれ。俺はあんたのものじゃないし、あんたのものにもならない。一生な」
「……なら、死んだ世界でなら、一緒になれるのかな」

ねっとりと見つめてくる瞳に鳥肌が立つ。
こいつと心中だなんて、死んでもゴメンだ。
間違えた、こいつの前で死んだら駄目だった。

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