18

「ロールケーキは邪魔者扱いするなよ。全部食べちゃうぞ」

あんまり食欲は無かったけど、せっかくだから取り分けてくれていたケーキを食べてみる事にした。
朝比奈さんの向かいに座って、ケーキを口に運ぶ。フルーツがたくさん入った甘酸っぱい味に、何だか体の力が抜けてくる。
気付けばペロリと平らげていて、満足して顔を上げたら、朝比奈さんとバッチリ目が合てしまった。
ずっと見られていたみたいだ。

「美味かった?」
「……まぁ」

美味かったと感じていたのは一目瞭然なんだけど。
曖昧に返事をした俺に構わず、朝比奈さんは笑顔で残りのケーキを平らげていった。この人の糖分摂取量は半端じゃない。

「昨日の夜、何かあったー?」
「特にはないですよ」
「そ、ならいいんだけど。なぁ、最近ここいらも物騒になってきただろ」

朝比奈さんは俺の表情を改まって見つめてきた。
あいつの話か……。
俺が頷くと、朝比奈さんは話を続けた。

奏斗にはドラッグとの関わりがあった。薬学部で一緒だった奏斗の友人が、新種ドラッグの製造に手を染めていたからだ。
その関連で、それらを売りさばくヤバめの組織とも繋がりがあったらしい。

「あいつら何か揉めてるみたい。売人が撃たれたらしい。サツやマトリにじゃなくて、つるんでた組にやられたんだって」
「もしかして、この前の発砲事件?」
「そう」

仕事柄か、朝比奈さんはそういった裏情報に詳しく、よく俺に奏斗関連の情報を流してくれていた。

「気を付けろ。組の奴ら、工場を根こそぎ潰す気だ。ここまで嗅ぎつけられたら厄介だぞ」
「俺は何もしてないよ」
「そうもいかないんだよ。奴らはあいつを探してる。あいつが住んでた所で生活してる薬剤師っていったら、他人からすれば何か知ってそうだもんよ。俺、心配になってきた。しばらく泊まりに来ようか?」
「大丈夫ですって」
「昨夜だって何してた? フラフラ出歩くとあぶないからな」

急に真面目な顔になった朝比奈さんが、手を伸ばして俺の手首を掴む。俺はその手をそっと外した。

「心配はいりませんよ。そろそろ行かないと、幸太が怒り狂ってるんじゃないかな」
「うちに住めばいいのに……。何かあったら、絶対に言えよ。今夜、様子見に来るから」

念を押すように言って、朝比奈さんは後ろ髪をひかれるようにして帰っていった。
自分を心配してくれる存在はありがたいとは思うけど、これ以上深くまで入り込んで欲しくないと、心が拒絶してしまう部分もあった。
奏斗とのことが、トラウマになっているのだろうか。

急に静かになった部屋に一人きりだと感じて、テレビの電源を入れてみたけど、内容はまったく入って来なかった。

[ 19/28 ]


[mokuji]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -