17「ひーろきくーん、朝帰りしたんだ?」
俺がシャワーを浴びて出てくると、探偵事務所所長という肩書きの何でも屋が、呑気に手土産の菓子を自分で食べていた。
お茶まで淹れて、我が物顔でソファーで寛いでるし。
柔和な好男子だけど、大の男がロールケーキを喜んで頬張っているのを見るのは何とも言えなくなる。
「休日前でしたからね。ところで、朝比奈さんは今日お休みじゃないですよね?」
「あー、うん、午後出勤かなーっ」
とぼけたように朝比奈さんが言った。
今ごろ、幸太はご立腹中だろうな。
朝比奈さんと事務所の所員である幸太は、あの時奏斗から俺を救出してくれた人達だ。
大学で仲良くなった幸太は、事ある毎に俺と奏斗の関係を危ぶんでいた。だから、俺と連絡が取れなくなって、当時バイトの雇い主だった朝比奈さんに相談して駆け付けてくれたらしい。
今でも、二人にはとても感謝している。
「うまいよ、スペシャルロールケーキ。朝イチで並んだんだからな」
「仕事もしないでなにやってんですか」
大方、朝比奈さんは昨日の事を美里さんから聞いて、様子を見に来たのだろう。
どこか俺を気遣うような視線に、気付かないふりをした。
一見深く考えて無さそうに見えても、意外に鋭いんだ、朝比奈さんは。いつも笑顔でふわふわしてるようでも、探偵事務所の所長の肩書きは伊達じゃない。
憐れんでいるつもりはないとはわかっているけど、それ以上俺の事で煩んでもらいたくなかった。
「そう怒るなよ。カリカリしてるのは寝不足だからだろ」
「せっかくの睡眠中に邪魔が入っちゃいましたからね」
結局あれから一睡も出来なかった。体は疲れているのに、眠気は遠ざかってしまっていた。
眠れたとしても、夢見がいいとは思えないけど。
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