16

ハッとなって覚醒した俺は、体を起こしかけて、腰から走った鈍い痛みに呻いた。
そう言えば、とうとうやっちまった、と言うかやられちまったんだ、俺は。

寝入った俺をベッドに寝かせてくれたらしい。隣にいる痛みの原因の男が、狭いベットから落ちないように、俺の腰を抱いて眠っていた。

甦る恥ずかしいアレコレを封印して、痛む体を無理矢理起こし、隣の男を恐る恐る覗いてみる。
今は閉じられている瞳は、もしかしたらあの時と同じものなのかもしれない。
さっき夢うつつに見たあの人と、面影も重なる気がする。

「マジでか……」

もしそうなら、何で奈波さんはそれを言わなかったのだろう。
俺は記憶がおかしかったせいで思い出せなかったけど、昔のことだし、奈波さんももう忘れてるのだろうか?

ベットサイドに置かれていた、ペットボトルの水に勝手に口を付けて、混乱する頭を落ち着かせる。

……あの頃のことはともかく、奈波さんは今の俺のことを色々知っているのかもしれない。
さっきはよく考えられなかったけど、奈波さんは確かに『亡くなった』って言っていた。
猫に対して、亡くなるなんて言葉を使うだろうか。
俺が両親の事と重ねていたんだって気付いたんだろう。だから、俺の両親に対しての『亡くなる』だったんだ。
それは、奈波さんが俺の両親も事故で他界したと知っているからなんだろうな。

黒い犬の飼い主は、そのことは知らないはずだ。
あれから間もなく、親父の転勤で俺は引っ越しをしたから、離ればなれになってしまったんだ。

奈波さんは、何の目的で俺に近付いてきたんだろう。


夜明け前の、薄闇の中にいる自分をまざまざと感じて、急に寒気が走った。
急いでベットから降りて、痛みに耐えつつ着替えを済ませる。
人のぬくもりは、すぐになくなってしまう。
悲しい思いも、裏切られるのも、もうごめんだ。


歩いて移動するのにも苦労するけど、とにかくここから早く出たかった。
鍵はかけてから行かないと。そう律儀に思った俺は、ここの鍵を捜すために、ソファーに無造作にかけてあったジャケットを手にした。

思いのほかずっしりとしている。
鍵を捜すのにジャケットを広げてみると、間からホルダーが覗いた。中に収まっていたものを見て、息を呑む。
そこにあったのは、黒光りする拳銃だった。

「何で……」

俺はジャケットとホルダーをソファーに投げ捨てると、そのまま部屋を後にした。


外は空が白み始めていた。
まだ薄暗い道を大通りに向かって歩く。
この辺りは知っている。奈波さんの家から俺の家まではそう遠くはなかった。

わずかな距離だけど、タクシーを捕まえよう。一刻も早く家の中に入って、家中の鍵をかけないと。
明け方の冷気に、俺は体を震わせた。

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