俺の家庭は、一般的なごく普通の家庭だった。
子煩悩な父に優しい母、自慢の綺麗な姉。
俺が志望していた大学から、合格の通知が届いた頃、結婚して海外に住んでいた姉の妊娠がわかり、一家はいっそう華やいでいた。

そんな時、思わぬ不幸が俺たちを襲った。
両親と俺が乗った車が事故で大破して、そのまま両親は亡くなってしまったのだ。
後部座席にいた俺は無事だったけど、事故のショックでそれ以前の記憶が曖昧になってしまっていた。

両親を突然亡くし、全て忘れてしまった訳じゃないけれど記憶もあやふやで、そんな俺をひどく心配した姉が、海外の姉の家で一緒に住もうと言ってくれた。
でも、ただでさえ身重な姉に俺の存在が重たくなってしまうのが嫌だった。それに大学に合格したのを両親が喜んでいた事を覚えていた俺は、どうしてもそれに甘える事が出来なかった。

そんな時、あの男が現れたんだ。母の歳の離れた弟、寺嶋奏斗が。
奏斗は叔父といっても歳が近かったせいか、小さい頃から遊んでもらっていて、その記憶も残っていた。
だから、同居して俺の後見人になってくれるという申し出に、姉も俺も素直に応じたのだ。
それが、あいつの罠だと気付かずに。

俺が退院してから、奏斗との二人きりの生活が始まった。
薬剤師の免許を持ち、若くして薬局を継いでいた奏斗を俺はリハビリがてら手伝っていた。

その頃の俺は、肉体的な傷は癒えても、両親を目の前で失った傷は深く残っていた。自分の過去を曖昧にしか思い出せない不安とごちゃ混ぜになって、俺自身を苛み、心を抉っていた。
日中は何とか普通を保っていても、夜になれば静寂な闇に飲み込まれそうになる。

毎晩、うなされて苦しんでいた俺に奏斗は傍に付き添い、そのうち一緒に眠るようになっていた。
普通だったら考えられない事だけど、あの頃の俺にとって、その僅かな休息の時間が大切で、身近にいる血縁者である奏斗の存在が拠り所となっていた。

理知的で整った風貌の奏斗は、絶えず女からいい寄られていて、何人かと付き合っている様子だった。
けれど、俺が不調になれば何よりも、時には仕事よりも俺を優先させていた。
いつでも優く俺に接したあいつは、俺の不安定な心を見抜いて、するりと入り込んできたんだ。

そんな中で、ゆっくりと平穏を取り戻した俺は、大学の友人とも関わりを持つようになっていた。
その頃から、奏斗の俺に対する執着じみた行動が徐々に現われはじめるようになる。
行動を詮索され、学業以外の外出を制限される。はじめは俺を心配しての行動だと、世話になっている事もありそれを甘受していた。
けれど、俺自身が健康になるにつれ、奏斗との閉鎖された環境に次第に違和感を感じるようになっていた。

そんなある日、そんな環境から早く抜け出したかった俺は、夜は一人で眠りたいと奏斗に伝えると、奏斗はひどく狼狽し、それはどうしてか、まだ駄目だと取り乱したように言い募った。

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