「……て、ご存知でした?」
「へ?」
「駅前通りであった発砲事件、犯人がまだ捕まっていないんですって」
「あー、そうなんですか」

お喋りなクランケにげんなりしながら、調剤した薬を袋に詰める。
この薬局には、近所の高級住宅街からマダム達が訪れてくる。彼女たちの長い世間話や自慢話に、時々笑顔が引きつりそうになるけど、根性で笑顔を作り続けた。

だから、普段は静かに過ごしたくて、自分から他人を招くことだって滅多にしない。
それなのに、あいつを招き入れてしまった。俺のドーベルマンに似ているように見えて、懐かしく思ってしまったから。
けれど、実際は全然違った。凛々しい見た目を裏切って、あんな……、あんなことしやがって!

今だに思い出すと羞恥で体が熱くなる。
煙草の匂いと甘い声、それから大きな手の感触。
無理矢理快感を引きずり出されて、一方的に追い上げられた。
のぼりつめた俺が放ったものをペロリと舐めながら、あいつは治療代だ、なんて言いやがったんだ。

ふざけんな、治療代なら金払えってんだバカヤロー!!

「怖いわねえ」
「えっ?」
「上久保さんもこちらにお一人でいらっしゃるんでしょう。お気を付けてになって」
「ええ。でも、うちには番猫がいますから」

俺の言葉にクスクス笑いながら、マダムは一通りのおしゃべりに満足したのか帰って行った。


最後のクランケを玄関まで見送る。そのまま掃除をしてから室内に戻ろうとした時、いきなり背後から肩を掴まれて、玄関の中に押し込められた。

「うわっ……!」

突然の出来事に、つんのめって倒れそうになった所をしっかりとした腕に支えられる。
振り返らなくても、相手が誰だかわかってしまった。

ふわりと漂った煙草の匂いに、かっと体が熱くなる。もちろん怒りのせいで。
俺を平然となぶって、そのまま何事もなかったように出て行った男が、今度は押し入り強盗みたいな真似をしてきやがった。

「てめっ!」

俺が振り上げた腕も、手首をがっちりと掴まれた。振り解こうとすれば、支えるため腰に回されていた腕に力を入れられて、相手と体が密着する。

「そう暴れるなって」
「……何しに来やがったんだ、この強姦魔」
「強姦魔ぁ? 何だよ、そうして欲しいのか? 最後までして欲しいなら遠慮するなよ」

とんでもない勘違い男だ。
無理矢理にでも振り返ろうと身を捩ると、今度はすんなりと解放された。
それから相手を振り仰いだ俺は、そのまま驚きに目を見開いてしまう。
その顔には、見事な引っ掻き傷が出来ていたのだ。

「それは?」
「ああ、猫にやられた」

俺の視線に気が付いた奴は、頬を抑えて顔を顰めた。そんな表情も男前で、余計に腹が立った。

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