幸い男の傷は縫うほどの事もなく、言った通り簡単な手当てで済ませた。
ただ、切れ長の目に終始無言で見つめられるのは、監視されているようで気持ちのいいものではない。けれど、そんなことを気にする素振りは見せずに、黙々と作業をこなした。

男から離れて、消毒液を片付けていると、真後ろから男の声がした。

「一人なのか?」

いつの間にか背後に立たれていた。
滑って手から離れた包帯を男が後ろから受け止めて、俺の代わりに棚にしまい込む。

「いいえ。同僚は休憩中」

振り返ると、思いのほか近くに男の顔があって、不覚にもどきりと胸が鳴ってしまった。厚めの唇がすぐ目の前にある。
とっさに離れようとしたら、男が両手を棚について壁を作られた。
体が近付く。

「何のつもりだよ」

強い煙草の匂いが一層強くなる。
背中が戸棚に当たって、硝子がぶつかり合う音がやけに響いた。

「得体の知れない男をよく平気で招き入れるな」
「自分で自覚してるんだ。怪しい男だって」

にやりと笑った男が、俺の腰に手を回してきた。身を捩っても離れるどころか、ぐいぐい腰を押し付けてくる。
最悪だ。

「白衣ってのは、どうしてこうそそられんだ?」

そんな事知るか!
怒鳴ろうと開いた口を急いで閉じた。あろう事か男が俺の耳をねっとりと舐めあげたのだ。
危うく悲鳴をあげる所だった。

押しても引いてもびくともしない、鍛えられた頑丈な体だった。俺はこのまま変態野郎の餌食になるのか。

「俺は、男……、」
「知ってる、こいつがついてりゃ男だな」

言いながら服の上から大事な所を撫でられた。
俺、墓穴掘ったか。

「やめろ……っ」

撫で擦る手はそのままに、耳朶を噛まれ、息を吹きかけられて、ぞくぞくとした痺れが背筋から這い上がってくる。
震えを止められない。密着しているこいつにもそれは直ぐに伝わって、感じてんのか、と耳元で囁かれた。

「う…っ」

そこを辿るように指が這う。
もどかしい愛撫に腰が揺れてしまって、ねだるような動きをした事に羞恥で熱くなった。

「可愛いな」

ぽつりと呟いた男がズボンのファスナーを下ろして、俺の息子を取り出す。
可愛いとはこいつのことか、コノヤロー!と叫べるはずもなく、大きな手に柔らかく握られて、息を呑む事しか出来なかった。

この男には近付くべきじゃなかったのかもしれない。後悔しても後の祭り、そんな言葉が頭を掠めた。

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