弟は、俺に汚されても全てが穢れる事はなかった。


しかし、目の前のにいる男は全てが腐りきっている。
人が誰しも、自分のように金や地位を欲しがっていると思い込む。単純な浅はかさは、行き着く先など知れている。

「まだ社長には報告していません」
「私に片付けさせろと?」
「いえ、ご意見をお聞かせ下されば、後はこちらで」

穏やかな笑みを湛えていても、狡猾さは隠しきれない。
今、父親の秘書が提出したのは、闇に紛れ込んでいた書類だ。
業務上横領の事実。

自分の有能さと、従順さを知らしめるパフォーマンス。
真っ先に俺に知らせたのは、俺の出方によって自分の今後を見極める為だ。
そして、水面下で動く場合、俺からの命令だと言えば大抵の事は滞りなく進む。

弟は生まれながらに地位と名誉を約束されている。それなりに帝王学も学んでいる弟は、間もなく新入社員としてやってくる。
その前に、弟側の人間を潰すつもりなのだ。

「わかりました。確認してから決めましょう」
「早急に対処された方がよろしいかと」
「裏付けを取ってからです」

レールに敷かれたような安穏な将来も、心も体も全て失ったなら、それこそ本当に弟は壊れていくのだろうか。


「どうしてですか……?」
「研修のつもりで行ってこい」

従順だった秘書との関係もそろそろ潮時だろう。
割り切った付き合いのつもりだったが、時折感じる視線には感情が籠もっていた。感情に支配された者は、そのうち役立ずになる。

「納得できません。至らない所があるなら、仰ってください」
「仕事に戻るように。引き継ぎや準備があるだろう」

訝しく思うのも当然だろう。
戯れに触れる事もなくなり、それに追い討ちをかけるように、こんな時期にいきなりの辞令だ。

代わりの秘書ならいくらでもいる。

禁忌の味を知ってからは、他に手を出す事も減っていった。
毎晩のように組み敷いて、堪能しているのは苦味なのか甘味なのか。
しかし、そんな答えなどどうでもいい。
この関係も、いずれ幕引きとなる。

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[mokuji]

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