兄の友人は、楽しい人だった。少しだけのつもりが、いつの間にか話を聞き入ってしまっていた。
兄が入れた珈琲を飲みながら、三人で過ごす。珈琲は友人が好きだという珍しいフレーバーのものだった。

しばらくして、兄に仕事の呼び出しが入った。連絡をしてきたのは、あの秘書からだ。
兄は会社へ向かう。
また二人で体を重ねるのだろうか。この呼び出しは、本当に仕事なのだろうか。

「お兄さんがいなくなって、寂しいんだ?」
「そんなんじゃないです」
「そ? すげえ追いかけたいって顔してたよ」

そう言われて気が付いた。
今の自分は、兄の事しか考えていなかった。

「あいつに勉強を見てもらってるんだって?」
「はい。いつも分かりやすく教えてくれます。兄は昔から頭が良かったんですか?」
「まあな。くそ真面目で頭のいい、いけすかねぇ野郎だったぜ、はじめはな。でも、あいつの本質を知ったら好きになったかな」
「好きに?」
「はは、心配? でも大丈夫だよ。俺もあいつも喰う方だからな。それに、間違って手ぇでも出したら、大火傷するのがオチだ」
「……男を抱くんですか?」
「俺は女もイケるからバイね。あいつはガチだよ。もしかして、キミも興味あるんだ?」

男の体が近付いた。
兄の部屋に二人きりだった。
穏やかだったはずの瞳の中に、獰猛な色を見つける。
立ち上がろうとしても、足が動かなかった。

「足、痺れちゃったんじゃない?」

クスクス笑いながら、床に押さえ付けられた。ラグの柔らかい感触が頬に当たる。
抵抗したいのに、全く力が入らない。されるがままだった。

「本当はこうして欲しくて、逃げなかったんでしょ?」

そんなはずはない。
でも、どうして抵抗出来ないのだろう。疲労が溜まって、体がおかしくなってしまったのだろうか。

「離せっ」
「やだね」

シャツの中に入り込んだ手が、這い上がって胸を撫で回される。
嫌なはずなのに、触られた場所が、じわりと熱を帯び始めた。

「ぁっ、どうして…こんなっ」
「キミがそそるからいけないんだよ。一緒に気持ちいい事しような」

軽薄な答え。そんな理由で、賢そうだった彼がこんな事をするとは思えない。
それなのに、痺れるような快感が駆け巡り、あまり深く考えられなくなっていた。

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