5とてつもなく長い間のように感じていた。時計を見たら、三十分足らずの出来事だった。
じっとりと汗ばみ、疲労が増した体を引きずって仮眠室から出る。静かになった部屋には誰もいない。
整然としている机が、とても淫靡なものに思えた。
同性同士の関係なんか、考えた事もなかった。
あの二人は恋人なのだろうか。
兄に触られて、気持ちよさそうな声を上げていた。それだけ、兄に愛されているのかもしれない。
冷たいばかりだった兄は、他人に触れて、熱を帯びていたのだ。
「どうかしたのか?」
「あっ、何でもないよ」
吸い寄せられるように、兄の唇に視線が行ってしまう。
せっかく勉強を教えてくれているのに、全く集中できない。
不意に、長い指が目の前に延びてきて、思わず体を引いた。それでも追い掛けてきた指に捕まってしまう。
兄の綺麗な指が、俺の前髪を掻き上げて額に触れる。
本当は兄と二人きりにはなりたくなかった。
会社での出来事が、生々しく蘇る。
男の体をまさぐっていた指が、今、俺に触れていた。
「熱はないみたいだな。具合が悪いならまたにしよう」
「う、うん」
俺から離れた兄の指が、テキストを片付け始めるのを目で追ってしまう。
「ああ、そうだ。明後日は俺の友人が来る。一から会社を立ち上げた男だから、今後の参考にいろいろと話を聞いてみるといい」
「そうなんだ。わかった」
兄の友人と聞いて、どきりとした。兄が友人の話をするのは、珍しい。
あまりにも、俺は兄の事を知らなかった。
[ 5/11 ]← →
[mokuji]