3「この後は?」
「一時間後に会食です」
「そうか。おいで」
「あ……、だめですよ。移動時間が」
「すぐに終わる」
どうしたらいいか悩んでいるうちに、二人はなんだかおかしな雰囲気になった。
どういう事だろう。
兄の秘書は男だったはずなのに、急に艶めいた声を上げ始めた。
何が行われているのか気になって、そっと仮眠室の扉を開く。
「んぅっ、……っ」
二人は口付けを交わしていた。
思わず上げそうになった声を咄嗟に呑み込む。
男同士で、こんな場所で、兄は秘書の唇に吸い付き、彼のはだけた胸元に手を這わせていた。
「っ、だめです」
「こんなにしておいて、よく言う。触って欲しいんじゃないのか」
相手を机に押し付けて、高圧的に支配する。
いつだって冷たいはずだった兄の目は、熱を帯びているようだった。
「少しぐらい待たせても構わないさ」
「でもっ、あぁ、ん……ッぁぁ」
急いでベッドに潜って耳を塞ぐ。
いつまでも頭から離れない。漏れ聞こえる嬌声より、低く意地悪な兄の声と、俺には決して向けられる事のない熱い眼差しが。
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