仕事から帰った兄に、勉強を見てもらうのは日課になっていた。
父さんが兄に見えもらえと言うからだ。
俺と兄が仲良くする事を母さんは嫌がる。でも、俺が父さんに逆らう事をして欲しくないから、母さんは黙って見過ごしていた。

「今の説明でわかったのか?」
「ん、もう一回お願いします」

兄はオリコウだから、頭が悪い俺にも分かりやすいように説明してくれる。そうやって、俺に優しいフリをするんだ。
本当は、いつだって俺を氷のように冷たい目で見ている。その目で見られると、体の芯から凍えてしまいそうになった。

俺の兄は、出来がいい。
王子様みたいな容姿も明晰な頭脳もスタイルも全て完璧だった。
それなのに、母さんは本当の息子の存在を認めていない。
新しい家族は、偽物だった。

「ここのところ、帰りが遅いようだな」
「うん。友達とも一緒に勉強するようにしたんだ」

義務だけなら、心配するフリなんかしなくてもいいのに。
単純な俺は、錯覚しそうになる。凍てつくような視線を感じていても。


夏休みになり、俺は父さんの仕事の手伝いのために、慣れないスーツを着て会社に来ていた。
委員会の登校日は、母さんが学校に手を回したので休まざるを得なくなった。近頃、母さんも苛々しているようだったから、言う事を聞いた。
それに、会社には兄もいる。仕事場での姿を見てみたいと思っていた。

働き始めて数日。
外の暑さとオフィスの低い温度、それから慣れない仕事が体力を奪っていく。

「おっと、大丈夫かい?」

目眩を感じてふらついた体を支えたのは、父さんの秘書だった。
この人の視線は、いつも体にベッタリとまとわりついてくるようで鳥肌がたつ。御座なりに礼を述べて、逃げるようにそばから離れた。

その足で兄の部屋へと向かう。兄の部屋には、徹夜で仕事をしなければならない時のために、簡単な仮眠室が備え付けられている。
今日、兄は打ち合わせで殆どいないはずだった。限界だった体を、兄の部屋で少し休ませてもらう事にした。

しばらくベッドで横になっていると、パーティションで仕切られただけのここに、ドアを開閉する音が響いてくる。兄と秘書が、戻って来てしまったのだ。

「さっきの内容を纏めるように。それから関連資料も一緒に頼む」
「はい」

てきぱきと指示を出す兄の声が聞こえる。
今ここで、のこのこと出て行ったなら、またあの冷たい目で見られてしまう。
息を潜めて、成り行きを見守った。

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