母親からは、いないものとして扱われていた。
自分を捨てた夫に日に日に似てくる俺の事が、心底気に食わないのだろう。
目を合わせない、口をきかない。義務として、必要最低限のことはしてくれるが、それだけだ。
憎い父親のかわりとして暴力を振るわれる事などはなかったが、存在を無いものとされるのは、母親の中で俺が殺されたのと同じ事だった。

父親はある日突然いなくなってしまった。
思い付く場所を隈無く探した。父親が恋しくて探していたのではなく、どうしていなくなったのか、それを問い詰める事が目的だった。
結局、父親を見つけることは出来なかった。

俺がそうしている間に、母親が見つけて来たのは新しい父親だった。
社会的地位も経済力もある男。彼女は完璧な代用品が欲しかったのだ。
新しい父親には子どもがいる。可愛らしくはにかみながら挨拶した子どもは、俺が新しい兄になる事を喜んでいた。
反面、俺は日常に血の繋がらない人間達がずかずかと入り込んでくる事を疎ましく感じていた。


母親は代用品に夢中になった。
ハンサムな夫と、人形のように愛らしい息子。壊れたものを取り戻す事に、必死になっていたのだ。
そんな母親からの興味は既に俺には無かったが、新しい父親の気は充分に引いたようだった。
常に従順に過ごし、学業では成績も上位をキープし続け、会社を経営する父親に自分を売り込む事に成功していた。今では父親の補佐として働いている。
母親はそれを面白く思ってはいなかったが、彼女が溺愛する俺の弟は、会社経営には向かないであろう事は明白だった。


「ただいま。お母さん」
「お帰りなさい。ずいぶん帰りが遅かったのね」
「うん。友達と図書室に寄ってたから」

弟に母親はうるさいくらいにまとわりつく。
無条件に愛されている弟は甘やかされて育ち、世間知らずな子どもだった。
そんな二人が、目の前でベタベタしていても興味などない。
時折向けられてくる、酷く純粋な瞳にも素知らぬ顔をしていた。

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