17

色を無くした唇が戦慄いている。
恐怖ではなく、それは悲痛を訴えているようだった。


「どうした? あれが忘れられないなら、またしてやってもいいが」

固く唇を閉ざす葉月の手を引き寄せる。様子がおかしいのは、偽の植木屋が来たせいだろう。

押し倒したしなやかな身体に、三神はのしかかった。
強気に振る舞いながら、簡単に手中に収まる。逃げて追わせ、手が届く存在だと無意識に男を煽るのだ。
だが、中身は子ども。ひとつ、ふたつ脅してやれば、簡単に逃げていくはずだ。

「俺はあんたが何者なのか、わからないままだ」
「そんな事を知ってどうする」
「白澤先生に聞いたんだ。俺はあんたを忘れてしまうかもしれない」

葉月が下から見上げてくる。いつも真っ直ぐだったそれは、水を含んで揺れていた。
震える唇を塞いで、二度と口が利けないように舌を食い千切ってしまおうか。
そう思うがまま、三神は塞いだ唇を舌でなぞり、吐息を飲み込む。
慣れない子どもは、呼吸もままならずにすぐに力を無くした。

「エロオヤジ」
「ガキが、腰砕けじゃねえか」

口を塞いでしまうのは簡単だ。だが三神は、及ばないものもあると知り過ぎてしまっていた。

「俺が忘れなきゃいい」

最後の口付けだった。
それは簡単に、手の中をすり抜けて行った。

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