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「先程の人物は富田造園とは無関係でした。真宏さんと接触した可能性がありますが」
「放っておけ」
「では、真宏さんは」
「そろそろいいだろう」
「わかりました」

一礼した宮前が下がり、室内に静けさが戻る。
三神伊織は、先程まで葉月が佇んでいた庭へと視線を向けた。

三神が麻薬絡みのトラブルに巻き込まれていた学生を助けたのは気紛れだった。
学生の中で目に留まったのは、見た目に反して勝ち気で気丈な子ども。だが三神には、脆く崩れそうな部分をがちがちに固めた鎧で、必死に守っているように見えた。
その時は、ただそれだけで終わった。しかし、その後の子どもの事が気になっていたのは確かだった。

あの日も、麻薬取締官を陥れる計画をしている組織があると耳にし、ほんの気紛れにそれを見届けに来たに過ぎなかった。
だが、罠に填まり奪われかけていた葉月に、気付けば手を伸ばしていた。

思わぬ所で三神の手中に落ちてきた葉月は、老いた冬桜をいつも眺めていた。
色のないその木は、酷く寒々しいが、その侘しい風景が一枚の絵画のように色を帯びたのは、そこにいつも一人佇んでいたからだ。
いつしか、朧に咲き乱れるの桜の中で、その姿を見てみたいと思うようになっていた。

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