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両腕を頭上で押さえられ、男に跨れている状態だった。足をばたつかせるくらいしか出来ないが、葉月はどんな状況でも弱みは見せたくなかった。

目の前の強い瞳が葉月を捕える。
この男は、人を凝視するのが癖なのだろうか。そう考えていた葉月に、男が顔を近付ける。

「こんな時に余所事か。余裕だな」
「あんたも、怪我してるのに盛りすぎだろ」

葉月が下から睨むと男が喉の奥で笑う。

「気が強いのは相変わらずか」
「やっぱり、あんたは俺を知ってるのか? だから助けてくれたんだろう」
「本当に目出たいヤツだな」
「伊織」

男が訝しげな表情をする。

「伊織って苗字なのか? それとも名前?」
「俺の事が知りたくなったのか?」
「そうだ。あんたは謎だらけだ」

舌打ちすると、男は立ち上がって葉月から離れた。

「行け」

それだけ言うと、それきり葉月から興味を無くしてしまったように、背を向けて外を眺めた。

そんな男を葉月は黙って見つめる。
男の後ろ姿は真っ直ぐで、何があっても揺らがない力強さがあった。
簡単に男に転がされてしまう葉月とは違う。あの腕で、男の葉月を抱き上げてしまうのだ。


◇◇◇


庭に出た葉月は桜の木を見上げた。ここ数日の温かさで、間もなく蕾も芽吹くだろう。
もしかして、このままこの庭で、花見までしてしまうのだろうか。
あの男はどうだろう。傷が癒えたらすぐに仕事に復帰するはずだ。
どんな仕事に携わっているのかは知らないが、いつまでも屋敷にいるわけではないだろう。そしたら、葉月も帰る事が出来るだろうか。

ふと、視線を感じた。
縁側で監視している宮前のものではない。
男が自室から葉月を見ていた。
不思議な視線だ。葉月に何か言いたいのか、それとも別の何かが込められているのか。葉月には読み取る事は出来なかった。

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