冬桜にもたれていた葉月が目を開くと、いつの間にか屋敷の濡れ縁に、見知らぬ男が立っていた。紫紺の着物が、静かな景色に色を添えている。
その男も、葉月と同じように首や右腕に包帯を巻いているのが目についた。

男は濡れ縁から庭に降り立ち、葉月のいる方へと向かってくる。普段から着物を着慣れているのか、慣れた足捌きだった。
近づくにつれ、男の整った顔立ちがはっきりとわかる。
冷然とした雰囲気をもっており、その秀麗さと、すらりとした長身には、一見派手に見える着物がよく似合っていた。

男のものだろうか、嗅ぎ慣れない香の香りが漂う。
すぐ傍に来た男は、葉月を見ながら目を細めるが、その瞳は全く笑っていなかった。
葉月は、咄嗟に男から離れようとしたがすでに遅く、強く肩を押されて冬桜の幹に押し付けられた。

「無防備だな」

襲った痛みに呻いた途端、首を押さえられる。
首に絡み付く、ひやりとした冷たい指。
絞められると思ったが、男は軽く押さえているだけで、呼吸は止められなかった。

男から視線も体も逃れられない。次第に男の顔で視界がいっぱいになって行く。鼻先が触れ合いそうな程近づいた。
葉月は、目の前の黒い瞳から視線を逸らせず、吸い込まれてしまいそうな錯覚を起こした。

「簡単に折れそうだ」
「っ……」

血液が頭に回らない。
押さえられていたのは、頸動脈洞だったのだ。
今さら男の腕を掴んでも無駄だった。視界がチカチカとしはじめて、愉しげな笑みを浮かべる相貌が、次第に霞んで行く。
何故、初対面の男に首を絞められなければならないのか。

意識を失う直前、男の表情が少しだけ、訝しげなものに変わった。
僅かな表情の変化。それが、とても印象的だった。

[ 7/21 ]


[mokuji]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -