神野は、瓦礫だらけになった工場内へ足を進めた。
つい先日までは、機械がフル稼働し、普通に人が働いていた場所だった。

「神野さん、待ってください! それ以上は危険です。後は我々だけで」
「大丈夫だ」

中心に向かうにつれ、足場は悪くなり、異臭に鼻を覆いたくなる。その凄惨な現状を目に焼き付けながら、神野は今にも暴れだしそうな激しい感情を押さえ付けた。

この工場で爆発が起こった。犯罪組織による、人為的な爆発だと思われる。
爆発による衝撃波で大きな機械は壊され、散らばった破片で足の踏み場が悪い。
中心部は高熱で床が焼け焦げ、溶けかけた鉄屑が転がっていた。

「爆発物はありましたか?」
「それらしき物は見当たりません。恐らく、ここで精製されていた食用粉による粉塵爆発かと思われます。しかし、爆発を誘導させるほどの発火原は発見出来ませんでした。このままだと、証拠不十分になる恐れが」
「ふざけた真似を……」

大きな爆発が起こったのは、麻薬捜査局が警察とともに調査に出向いていた最中の事だった。証拠を消すために、仕組まれていたと推測できる。

「葉月さん、俺が怪我をしたせいで一人で行ってしまったんです……。そしたら、大きな爆発が……!!」
「君の所為ではない。葉月を見つけるためにも、捜査に動きなさい」
「はい」

遺体の中に葉月はいなかった。
ここにいたはずの葉月は、忽然と姿を消したわけではない。命を奪うならそうしていたはずだ。
麻薬取締官である葉月自身が、何かしらの犯罪に利用されてしまう可能性もある。

神野は、葉月の整った、けれど表情の乏しい顔を思い浮かべた。真人と同じではあるが、穏やかな真人とは違い、葉月には張り詰めた危うさがあった。
真人の事もあり、他人に迷惑をかけたくないと、何でも一人で背負い込む。その葉月の純粋な思いが、また他人を遠ざけてしまうのだ。
もっと自分を曝け出し、己の為に生きて欲しいと、彼を見る度に神野は歯痒い思いをしていた。

「必ず見つけ出す」

そして今度こそ、心の底から笑って欲しい。
瓦礫だらけの場所に、神野の強い声が響いた。

[ 5/21 ]


[mokuji]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -