「お前は何でここにいんだ?」
「そ、それはっ」

身を竦ませて、パクパクしながら声を絞りだしていると、後ろから氷の女王、もとい上久保さんがやって来た。

「あ、奈波さん。丁度いい所に来ましたね」

まさに門前の虎後門の狼、四面楚歌状態に身動きが取れなくなってしまった。
オレ、何も悪いことしてないですよっ。

「お前達、二人で何やってたんだ?」

燃え上がるような警視の視線に怯むことなく、上久保さんは軽く腕を組んで冷笑を浮かべている。
この中で一番華奢なのに、何だか一番威圧感があるんですが……。

「何って、あんたの仕事っぷりをね、聞いてたんですよこの地味スーツに」

上久保さんの冷気に冷やされたのか、警視の熱が一気に冷めたみたいで、眉間にぐっと皺をよせている。
そして訝しげにオレを見た。

「あの、上久保さんに警視の仕事っぷりを報告したんです。先日のマトリに惚れられた話とか……」
「なっ、お前余計な事を」
「俺もあんたから直接話を聞きたかった所なんですよね、奈波さん」

一気に青くなった警視が、俺仕事中だった、と言って戻ろうとするのを、すかさず上久保さんの腕が引き止める。

「聞かせてくれますよね」
「誤解だ、尋貴! マジでおかしな言い方しやがって、地味スーツ、貴様はクビだっ」
「……えっ、何で?」

ズルズルと引きずられていく警視に、貴様も来いッとオレまで道連れにされてしまった。


この後、二人のやり取りに巻き添えを食らったオレは、それが紛れもない痴話喧嘩だと気付いた瞬間、オレの淡い想いは見事に砕け散った。
死亡フラグ、それを身を持って体験した、貴重な一日だった。


おわり

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