「地味スーツ、昼飯食べに来る?」


うえぇぇぇぇっ!?
上久保さんのプルンとした唇から紡ぎだされた甘い言葉に、もう本当の名前なんて呼ばれなくったっていいって思えるほど、オレは舞い上がってしまった。


刑事であるオレが、薬剤師の上久保さんと出会ったのは、彼を襲ったストーカーを逮捕し、連行した時だった。
男が男にストーカーだなんて、まぁ、今までも無かったわけじゃないけど、上久保さんならば誰もがあり得る!って納得すると思う。それだけ上久保さんは綺麗な人だった。

事件当時、ストーカーに襲われた直後で震えていた、儚げな上久保さんを一目見た瞬間、オレのハートは鷲掴みにされてしまった。
そして、上久保さんを悪漢どもから守ってみせると、あの日の空に誓ったんだ。

そんな上久保さんからのランチのお誘いともなれば、一も二もなくお受けしちゃうというもの。
鬼上司による、仕事と言う名のパシリ命令を巧みにこなして、今日のランチは上久保さんの手作り料理を上久保さんの家で二人きり……ふ、二人きり!

「地味スーツ、鼻血、鼻血」
「すびません!」

上久保さんが放ってくれたティッシュをあわてて鼻に詰め込んだ。
……マジで情けない。
刑事として鍛練されたオレの理性をぐらつかせてしまうくらい、上久保さんは罪作りな人だった。

「どうぞ召し上がれ」
「いただきます!」

並べられた料理は意外にも和食で、美味しそうな香りにつられて腹の虫が鳴ってしまう。
ああっ、オレのバカヤローッ!
何だかさっきから醜態を晒しっぱなしだよ。
けど、そんな俺を見ていた上久保さんは、しかたないなぁと言ってくすりと笑って、テキパキと料理を取り分けると、俺の前にそっと置いてくれた。
こんなふうに世話を焼いてもらって、おまけに口に運んだ煮物もメチャクチャ美味しくて。
ああ、こんなに幸せでいいのかな。
まさか刑事ドラマにありがちな死亡フラグ、……なんてことはないよな。

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