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「君は友人のために、一人で頑張っていたんだな。それが江利川までも動かした」
「ゆ、中瀬会長?」

そもそも江利川と拓海を会わせてくれたのは、悠真と平木だ。
拓海は困惑を隠せないまま、だが本当のことも言えず黙っていることしか出来ない。

悠真が拓海に話しかけてきたことによって、再び会議室の視線が拓海に集まっていた。
和葉が泣きそうな目で拓海を見ている。それに加えて、三枝からの突き刺さるような視線も痛い。
隣にいた遥都までも訝しげな表情になり、テーブルの下で拓海の手を握ってきた。

「孤立無援で飛び込んで来た時は驚いたが、今まで見かけなかった顔だな。君は外部入学生か?」
「……はい」
「なら、この学園にも染まっていないしもって来いだな」

水島が笑いを耐えるような素振りを見せているが、拓海はそれどころではない。
何がもって来いなのか。拓海は本気で耳を塞ぎたかった。

「君、会長補佐になって仕事を手伝ってくれ」
「どうしてですか!?」

遂に核心を突き付けられ、拓海はとっさに疑問を投げ返した。

「それは、君がこの学園に染まっておらず、友情を大切にする生徒だからだ」
「会長、待って下さい! 拓海は駄目です」

遥都が立ち上がって悠真に抗議する。

「なぜ?」
「会長の補佐になんかなったら、虐められるに決まってるでしょう」
「彼には、あくまでも仕事の手伝いをしてもらうんだ。彼を虐めることは、即ち俺の仕事を邪魔すると言うこと。それなのに、虐めるような真似をする奴がいるはずがないだろう」

なんて言う俺様理論なんだ。悠真だから許せる発言なのだろうが、拓海は呆気に取られてしまう。
遥都は硬い表情のまま、静かに席に座り直した。

「会長」
「何だ、森崎」
「今は学園に染まっていないとおっしゃいますが、今後どうなるかわからないですよ」
「……そうだな」

そう言って、悠真が考えるように拓海を見る。

「ところで、君と木崎の関係は?」
「幼なじみです……」
「恋人ではないんだな?」
「そうですが」

それを一番よく知っているのは悠真なのに。この時ばかりは、拓海も恨めしげに悠真を見た。

「だそうだ。木崎と長年一緒にいて、彼は幼なじみの関係を築いてきているらしい」
「格好いい男にも耐性が出来てるってことだよねぇ。いいんじゃない? 貞淑な感じだし、俺は賛成だよぉ」

倉林はただ単に和葉以外なら誰でもいいのだろうが、わざわざ賛成意見は言わないで欲しいと拓海は思う。

「はいはーい!」
「どうした、篠宮」
「俺は、俺を信じてくれた友情に厚い拓海に感謝してます。だから、親友として親衛隊を結成し、親友として拓海を守ります! おまけに、拓海は特待生なので、会長の仕事もバッチリこなすと思います! な、水島?」
「……まあ、藤沢には本当に助けられたな。俺も熱い男、拓海の親衛隊に入りまーす」
「ち、ちょっと、二人とも何言ってるんだよ」

拓海に感謝してくれているなら、親衛隊を作るよりも出来ればこの状況を何とかして欲しかった。

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