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「ユウマあのね」
「どうした?」
「あの二人を連れて来たのはぼくだよ。ぼくも水島君は犯人なんかじゃないって思っていたんだ。二人が勘違いしてるかもしれないから、話を聞こうと思ってたんだよ」

和葉が眩しいくらいの笑顔で悠真に近づく。
その様子を拓海はモヤモヤした気持ちで見守るが、周囲の人達も気になっているようで、悠真達に視線が集まっていた。

「もう話し合いは終わりなんだろう? そろそろ失礼したいんだが」

そう言った河峰の眉間に皺が寄っている。
和葉が悠真にべったりな姿を見ているのが、嫌なのかも知れない。

「ああ、すまないが今から会長補佐について話しをさせてもらう。全員、そのままで聞いてくれ」
「えっ、補佐?」

悠真の口から補佐と言う言葉か出たためか、和葉が瞳を輝かせた。

「全員ですか?」
「ああ、ここで話し合う内容の証人として残ってくれ」

そうして用意された席に戸惑いながら座る。さすがに江利川と皐月達は席を外したが、何故か遥都が拓海のとなりに座っていた。

「姉妹校である聖蘭に、この生徒会のモデルケースを提供することになった。今は資料作りに追われているが、今後も向こうとのやり取りが必要になってくる。だが、会長としての仕事の手は抜きたくない。そこで、会長補佐を迎えることにしたんだが、如何せんしがらみが多くてな」
「会長モッテモテだもんねぇ。それこそ骨肉の争いになるよー。だから証人が必要なんだねぇ」

怖ーい、と倉林がわざとらしく怖がってみせる。

会長補佐のことは本当だったようだ。
平木の書いた新聞にあった、会長補佐の予想には、蓮の名前もあった。蓮は特待生だし、あの中では可能性が一番高いと思う。
もしかしたら、蓮がいたから、悠真はこの場に全員残るように言ったのかもしれない。

「それならぼくがユウマの補佐になりたい!」

つらつらと拓海が考えていると、和葉が元気に手を上げて立候補した。

「えーっ。和葉は会長補佐になりたいのぉ?」
「いいんじゃないですか? 和葉が補佐になれば、生徒会室で一緒に仕事が出来ますよ。副委員長の仕事は、松平にでも任せればいいのだし」
「オイ、ふざけたこと抜かしてんじゃねーぞ。ね、河峰さん」
「和葉がやりたいなら仕方ない」
「まあそっすね、ヤル気のない奴は願い下げ。むしろ遠慮なくどうぞ」
「わーい! 和葉は俺の補佐になってほしいな」
「副会長の補佐は必要ないですよ。和葉は、水島君が犯人ではないと気付いていたようだし、彼に補佐になっていただければ、会長も助かるのではないですか?」
「ぼく頑張るよ」

頬を染めながら、和葉が悠真を見上げる。しかし、悠真は首を縦にはしなかった。

「和葉は風紀の仕事を全うしてくれ。あの二人を脅迫した犯人を捕まえなければならないし、きっと二人の護衛も必要になるから、風紀は忙しいくなる」
「でもユウマ」
「和葉が水島が犯人ではないと気付いたなら、その能力は風紀にこそ必要なものだろう。どうだ、河峰」
「……ああ、そうだな」
「俺は期待しているんだ。和葉が風紀で活躍するのを」
「う、うん! わかった。ぼく頑張ってみる」

悠真が見事に和葉をあしらい、しかも、風紀の仕事にやる気を出させてしまった。
松平がちょっと残念そうな顔をしていたり、三枝が安堵していたり、それぞれ反応しているが、森崎は表情を変えることはなかった。
その森崎が再び口を開く。

「会長、まさか篠宮君を補佐にするつもりですか?」
「篠宮君も特待生だったな」
「そうですが、今は問題を抱えているようですし、彼を会長補佐にするのは得策ではないと思います」
「そうだな。だがまあ、俺は篠宮君を会長補佐にするつもりはなかったぞ」
「えっ?」
「そこでだ、友情に厚いそこの君」

悠真とばっちり目が合い、拓海の肩がびくりと揺れた。
こんな場面で悠真の視線に捉えられ、拓海は全くいい予感がしなかった。

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