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確実な証拠は何もないけれど、拓海は水島たちの無罪を訴えることが証拠にもなると思いながら話した。内容は河峰たちに言ったのと似たようなことだ。

「なので、絶対に二人は犯人ではありません」
「──つまりそれは、」

拓海が言い切ると、今まで一言も話さず静観していた会計の森崎が、おもむろに口を開いた。

「被害者の二人が嘘の証言をしていると仰りたいのですか?」

会議室が僅かに騒めく。
そんな中で、和葉と一緒にいた二人の生徒が顔を下に向けてしまう。俯いた彼らを庇うようにしながら、和葉が怒ったような表情で拓海を見た。

「辛い思いをした二人を嘘つき呼ばわりするなんて酷い!」

非難するような和葉の強い視線が、拓海を真っ直ぐに射ぬく。
傍から見れば、和葉の言う通り拓海は酷い人間に見えるだろう。

拓海は、唇を噛み締める蓮の姿と、無表情だけど強い視線の水島を見てから、また和葉たちに視線を戻した。

「何もしていないのに、処罰を受けるのは酷いことではないんですか? 水島君たちが犯人だと勘違いしていたのかもしれません。証言以外の証拠はあるんでしょうか」
「被害者がこいつらにヤられたっつってんだ。そんなモン必要ねえだろうが!」

怒りを露にした三枝が、拓海に食ってかかる。そのまま手まで出てきそうだったが、いつの間にか傍に来ていた遥都が拓海の手を引いたため、三枝と離れることが出来た。

「生徒会の会議で暴力沙汰でも起こすつもりですか?」
「テメェ……!」
「やめろ、三枝」

河峰の低い声が響き、三枝がピタリと止まる。それから周囲を見て、明らかに分が悪いと判断したのか、大きく舌打ちしてから、再び和葉の傍へと戻った。

「血の気の多い奴らを纏めるのも苦労するな」

そう言って口元に笑みを湛えた悠真に、河峰の眉間のしわが一層深くなる。
確かに風紀委員の面々は迫力があるが、だからこそ、河峰の鶴の一声の威力は凄まじいと、拓海は改めて思った。

「それでな、実は、ここに顔を出したいと言っている奴がいるんだ」
「えー、また何かあるのぉ」

これ以上ややこしくなるのはやなんだけどぉ、と倉林が心底面倒そうに言う。しかし、次に悠真の口から出た名前に驚いて目を見開いた。

「えー……!?」
「だから、江利川が来てるんだ。入って来い」

悠真の合図で会議室のドアが開く。静かに室内に入ってきたのは、昨日、拓海が対面したばかりの江利川だった。

「ッ! 江利川さん!!」

松平が、イスをひっくり返しながら立ち上がると、伏し目がちだった江利川が、柔和な笑みを浮かべた。

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