53遥都が帰った後、しばらくしてから風紀委員の津幡が迎えに来た。
悠真から聞いたが、津幡は悠真の親衛隊員でもあるらしい。だからあの時、悠真のブレザーを持っていたのだ。
そして、津幡に言われて制服姿になった拓海は、今、会議室の扉の前に立っていた。中ではすでに話し合いが始まっているようだ。
言われるがまま来てしまったけれど、本当に拓海が参加しても大丈夫なのだろうか。
「大丈夫ですよ。君の味方はちゃんといます」
緊張していた拓海に、津幡が静かに声をかけてくる。
拓海がここで尻込みしていては、蓮や水島を助けることもできない。拓海は頷くと、思い切って扉に手をかけた。
「あれ、何してるの?」
ちょうどそんな時に声をかけられて、拓海の手が止まる。
見れば和葉が立っていた。和葉の後ろには、三枝と見知らぬ生徒が二人いる。
「部外者は来ちゃ駄目なんだよ?」
和葉に言われて、扉から離れた拓海の前に、津幡が立ち塞がった。
三枝がそんな津幡を睨みつけるが、津幡は飄々としたまま三枝と向き合っている。
「津幡、どういうつもりだ?」
「気にせずにどうぞ」
「なに?」
「きっと証言者か何かだよ。ユキナリ、早く行こう」
「……ああ、わかった」
三枝は渋々津幡から視線を外した。
和葉は、昨日言っていたように、きっと水島を助けに来たのだろう。
拓海が開けようとしていた扉を開けた和葉は、あっさりと中に入ってしまった。三枝達も後から続いて中に入って行くので、拓海も津幡に見送られながら、一番最後に会議室に入った。
広々とした会議室には、立派な円形のミーティングテーブルが置いてあり、正面に悠真が座っていた。その隣には遥都がいて、入ってきた拓海を見て驚いて立ち上がりかけたが、悠真に制されていた。
扉の左手、テーブルから離れた場所には、両サイドを風紀委員に固められながら、パイプイスに座る蓮と水島がいた。二人も驚いて拓海を見ている。
「どうした、山岸。そんなに引き連れて」
「うん、今回の事件の被害者が見つかったから、連れてきたよ!」
会議室が騒つき、メンバーの視線が一斉に集まる。そんな中、河峰が拓海を見ながら訝しげに口を開いた。
「君は、どうしたんだ?」
「……はい、お、僕は、篠宮君と水島君の無実を訴えにきました」
拓海の前にいた和葉が振り返った。
三枝が拓海に向かって口を開きかけたが、それより先に悠真が話し掛けてくる。
「証拠はあるのか?」
「……ありません」
「なら引っ込んどけ」
そう言った三枝が拓海の腕を掴む。それを見ていた遥都がイスから立ち上がった。
「待て。話だけは聞こう」
「そうだねぇ。何だか一人で乗り込んできたみたいだしぃ。勇気をたたえてみたり」
「三枝先輩、拓海から手を離してください」
「チッ」
「……ありがとうございます」
無表情だけど、拓海を見つめる悠真の視線と不安げにしながらも見守ってくれる遥都、それから、どうしてか助け船を出してくれた倉林から、勇気をもらうことができたような気がした。
誰かの呆れたような視線もあるし、証拠も何もない不利な状況だが、やるしかない。和葉よりも早く水島の無実を証明しなければならないのだから。
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